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2014年7月19日土曜日

根っこの話

根っこが生えた。尻からも足の裏からも精神までも。どんどん伸びて太くなり、ウガンダの地に根付いてしまいそうだ。
いかん、これ以上いてはいかん!今引っこ抜かないと色んなものが肥大して抜けなくなってしまう。

さて今が抜き時だ。ほーらほら今まで地面に隠れていた瑞々しい白い根っこが。ほら抜けた、と思ったら自分の日焼けが色落ちした太ももだった。三カ月でここまで色落ちするとは安物の色Tシャツじゃないか。

レストランで働き始めて早くも三カ月が過ぎた。人の回転は以前書いたように早かったが、その中でも明るいスタッフと冗談言い合って笑い、ときには真剣に話したり、変な旅人を本当に温かく迎え入れてくれた。またウガンダで働く日本の方にも色々気を使ってもらってとても有難い日々だった。
今まで何度となく別れを経験してきたがいつもその時その時に感慨深いものがある。そろそろ長く居続けられる場所を探したくもある自分がいる。がことはそう簡単には運ばない。ような気がする。
しかしここでの出会いが将来どのような形となって現れるのか楽しみであることは疑いようがない。

薄汚く汚れた雑草を拾ってくれ、また素晴らしいし水と栄養を与えてくれたアリフには感謝してもし尽くせないだろう。

相変わらず旅の資金はカツカツだが何とか大陸縦断はできそうだ。
これから先、どのような出会いが待ち受けているのかと思うと出発前の夜は眠れない。
世話になった全てに静かに感謝する時間に使えば眠れぬ夜もまぁ無駄ではないか。


どうもありがとう。
 ウェイターと。


 ありがとうございました or 禿げる前に一矢報いる?

 マネジメントと。


 シェフと。


シェフたちと。

2014年7月2日水曜日

事はどう転ぶかわからない

いくつか新しいメニューを去る前に加える。中華ショップでレンコンを見つけたのでレンコンつくねを。



昨夜一緒に飲み歩いたチャールズは「今日は仕事いかない」と宣言していたし、アリフは普段から週末辺りはほとんど来ないので、今日はマネージャーなしのレストランだった。

そんな中でレストランで働いていて一番やりたくないな、と思っていた仕事が回ってきてしまった。
クレーム対応だ。
日本語でだって難しいのに、英語を自由に使いこなせない私にはかなりの精神的負担だ。でも日本だったら、これだけの能力ではこんなことさせてもらえないだろうな、ということもここアフリカではさせてくれるので自分の壁を乗り越えて色々なことが試せる。

更に言うとクレームに対応するのには英語を使えるだけでは意味がない。そのお客さんの文化を理解した対応でないといけない。しばしば私はアリフやチャールズがヨーロピアンのクレームに対応するのを見て、日本とは違うなと感じていたことがある。彼らはまずなかなか謝罪の言葉は出さない。どうしてそのような状況になったのかを滔々と説明してお客さんに納得してもらうスタイルを取る。日本だったら言い訳せずにまずは謝ったらどうだ?と言われそうだが、ヨーロッパのお客さんにはその方が受けがいいようなのだ。だからお客さんのクレームへの対応は難しい。こと多国籍のお客さんを相手にするようなレストランでは。

日曜日にしては結構な賑わいで昼は過ぎた。日曜の夜は普通、月曜に備えてお客さんがあまり遅くまで残らない。この日も静かに過ぎ去ろうとしていた。そんな時に華奢な体でどこかアンニュイな雰囲気を漂わせている新人ウェイトレスのプレシャスが問題を拾ってきた。中国人と思しきお客さんがフランスのワインがないのはおかしい、とおっしゃっている、ときた。初めはプレシャスがそのクレームに対応していたがどうもお客さんは納得しないようで、給仕毎に日本酒の味がおかしい、イカの刺身に筋があるなどの新たなクレームを担ぎ込んで来る。
少々疲れ気味のプレシャスちゃん。しょうがないのでヘッドウェイターのキジトウが行くが、お猪口に酒を入れたものを持ち帰ってきただけで終わった。責任者に味見させろということだった。そのお猪口に注がれた例のお酒を味見してみるが、私の研ぎ澄まされているわけではない舌にはおかしなところを検知できなかった。むむ、お客様はなかなか鋭い人かもしれぬ。ますます相手は手強い。

オーナーに連絡してどう対処すべきか聞くと、とにかく説明に行って、件の料理と酒は料金を取らないようにしてくれ、ということになった。やれやれ、こんな英語もキチンと話せない私を、クレームをしているお客さんに送り込むとは喧嘩を売るようなもんじゃないのか?とかブチブチと考えながら、お客さんの席のある離れに向かう。もう他のお客さんは姿を消して、離れの部屋に残っているのは件のお客さんだけであった。

スタッフの見立て通り中国からのお客さんだった。親子と思しき二人の男性。息子は20代前半、親父は60歳くらいだろうか。テーブルには途中で放棄された日本酒と、オーストラリアの赤ワインが二本、イカの刺身が二皿載っていた。なぜかその二人のお客さんを目にしたとき、クレーム処理は嫌だなと思っていたものがさらっと消えてなくなった。アジア人で比較的文化が近くてほっとしたということもあったのかもしれないが、何よりもの生身の人間を前にしたときの安心感が大きかったと思う。
私は電話で話すのが嫌いだ。小さいときにいたずら電話を掛けて電話越しにひどく怒られたというトラウマを引きずっているという恥ずかしい理由も否めないが、何よりも相手の顔が見えないのが嫌だ。相手の情報が少なすぎる。匂いもないし。メールは顔も見えないし声も聞けないがまだいい。なぜならそれは文としてのコミュニケーションと割り切っているからだ。
ウェイトレスからお客さんのクレームを聞いたときは、まだお客さんがどんな人かわからない。いくらでも想像によるキャラクタライズが可能だ。頑固な人だったらどうしようとか、お前はどうしようもないやつだ!とか罵倒されるかもなぁ、とかね。
でも初めに彼らと対面して話して思ったのは、「あぁ、話せば分かってもらえる」ということだった。結局のところクレーム処理だって人間同士のコミュニケーションであって、楽しめばいいのではないかということに気がついた。勿論楽しんだだけで終わっていまえば、それはお客さんの誠意を踏みにじることになるから、改善すべきところは改善しなければならないが、多くのお客さんのクレームはアドバイスであると考えれば気が楽だ。


さて、英語を話せる息子と対峙して座った。片言の英語をしゃべる親父さんは私の右手に。二人とも真剣だが度を越えた怒りを見せているわけではなかった。日本酒の味が一回目の注文と二回目ので味が違う、二回目は水を混ぜただろ?と聞かれた。まさかそんな事はするはずがない。でももしもお客さんがそのように感じたのであれば彼らの怒りは十分すぎるほどわかる。とにかくまずは不快な思いをさせてしまったことを詫びた。日本人である私は根っからの謝り症が身についており、どうにもならず、お詫びの言葉がまず初めに出てしまった。もう国民症に違いない。

彼らに味見してみろと差し出された酒を口に含む。特にいつもと変なところは見当たらない。正直に「私には水が混ぜられているようには感じない」、と言うべきか、それとも彼らにおもねって「あなたの舌は確かだ、これはおかしい」と言うか刹那の逡巡を経て、正直にいつもと変わらないという旨を伝えた。相手を怒らせてしまうかもしれないなぁと思いながら。
しかし意外にも相手の男性は、お前の舌は腐っているな!なんてことは言わずに、「そうかぁ?この味じゃ水混ぜてるでしょ?おかしいなぁ。じゃぁこの筋のあるイカの刺身はどうだ?」
すると隣で英語をしゃべれないながらも親父さんが「ほら、ほらっ」と口から出したに違いないイカの筋を得意げに見せてくる。むむ、これは確かにイカの皮をうまく剥がしていなかった我々のミスだ。これまたペコリ。

オーナーの言う通りにイカとお酒はお金を頂かないという旨を申し出るが、お金の問題でないと言う。ごもっともなり。ただ気にいってもらえない料理で料金を頂くわけにはいかない。しばらく粘ったがそれでも食べたものは払うという。彼らの意思は固かった。彼らの意思は変えられないと踏んで、今後はこういうことがないようにスタッフ一同気を付けることを伝え引き下がることにした。

すると意外にも「しっかりと対応してくれてありがとう」という言葉を投げてくれた。この言葉で緊張が一気に溶けた。
彼らが赤ワインを飲んでいたので、ウガンダ在住の日本の方が丹精込めて作っているビターチョコレートを手に再び親子のもとを訪れた。それからがまた大変なことになった。
今度は破顔でのお出迎えなのだ。ななな、なんだぁー?さっきの意地悪そうな顔はどこへ行ったのだ?
チョコレートを差し出すと「まぁまぁそれはもういいから」と私を掘りごたつ式の座に座らせた。そしてワイン飲むか?ときたもんだ。なんだか嬉しくなっていつの間にか彼らと一緒にワインを一本空けていた。
話を聞くと今日は親父さんの60歳の誕生日だという。そして親子水入らずで我々のレストランに来てくれていたのだった。親父さんはウガンダでの商売で成功して裕福そうな話をしていたが、色々外国で成功するには苦労も多かったに違いない。アフリカで出会う日本人は富裕層か、または旅人(旅をしている暇があるくらいだからまぁそこそこ恵まれた人たちであろう)である。一方中国人は大使館などの一部を除けば、その多くは中国の農村で貧しい生活を強いられていた人々だ。初めは英語を話せないでやってくる中国人も多い。それでも血縁や知り合いを頼りにアフリカという未知の世界へやってきて、家族ぐるみで小さいビジネスから始める。彼らもそうであったのだろう。一人息子と共に築き上げてきた喜びをささやかに分かち合っていたのだ。60歳という区切りの日に息子が親父を労うためにもてなし、楽しく酒を飲もうとしたら酒の味がおかしいとなったらそれは大変気分を害されるだろう。特別な日であると知ってますますペコペコした。
しかし親父さんは「もうそんなんはいいから、それより一緒に飲めてありがとう」と言って、首の辺りに優しく両手を合わせて、少し首をかしげるようにして私の目を覗きこみ何度もお礼を言っている。初めのクレーム時には見せなかった、優しくそして満たされた笑顔がそこにはあった。いつしか連絡先を教え合って、また飲みましょうと言っていた。そんな不思議な出来事がこの世にはあるのだからたまらない。

何はともあれいい思い出になったようでよかった。レストランで働く人間にとっては一発逆転のような喜びがあって、仕事が終わってすぐにベッドに転がり込んでぐっすりと眠ってしまった。

2014年6月27日金曜日

ハッピーバースデー トゥーユー

うちのレストランは結構誕生日会の場として使われることも多い。
今日は誕生日のお客さんが三組もいてにぎやかだった。にぎやかなのはお客さんだけではない。我らのウェイター、ウェイトレスもここぞとばかりに誕生日の歌を大声で楽しそうに歌う。普段からお調子者だが人のいいシリウス、いつも鼻歌が愛らしいアリー、いつもはクールなバリスタジェイク、紳士のヘッドウェイターキジトウがケーキを手に歌いながらお客さんのところへ持って行く。見ず知らずのお客さんの誕生日を楽しそうに祝う彼らの姿を見るとなぜだかニヤリとしてしまう。彼らは歌を歌うことや踊ることに本当に長けている。長けているのは上手か下手かということではなく、彼ら自身とても楽しんでいるということ。そういう生き方を是非とも見習いたい。

2014年6月23日月曜日

回転寿司

今日は回転寿司屋の話をしたい。とは言っても寿司が回転する日本の寿司の話ではない。人事の回転の速い寿司屋(正確には寿司バーと呼ばれている)の話だ。

私が働き始めたのは四月の中ごろだから早二カ月が過ぎた。その中で26人いるスタッフに新しいスタッフが7人加わり、9人抜けた。回転が速い。回転寿司で言ったら「お、しめしめ、ツブがやってきたぞ」と構えたらいつの間にか通りすぎて手の届かない所に行って仕舞う心持ちだろうか。いや大好きなツブだと思ったらナメクジだったという感じかもしれない。

というのも多くは解雇。解雇の理由は盗みや行動が怪しい、またはオーナーに虚偽を働く。というものだからだ。ドライバーで雇っていたコールは兼ねてからガソリンを盗んでいる疑いがあった。いれたばかりのガソリンが数日のうちになくなっていることが幾度かあったのだ。そしてそう言った疑いとともに彼にとどめを刺したのが、仕事中(運転中)に車を止めて私用の電話に出たことだ。上司のアーロンの「それは緊急の電話か?」という質問を無視して、再び尋ねたアーロンに憤慨した態度を見せた。これで彼という寿司は諸々の疑いとともにキッチンのゴミ箱に廃棄され再びコンベアーに姿を見せることはなくなった。

次はバーテンダーのパトリオット。しばしばスタッフが隠れてチョコチョコ余り物を食っているのはオーナーも知っている。それは日本の飲食店のスタッフもそうなので特に違和感はない。しかし時にはその範囲を超えて、余り物ではない物までも手を付けてしまうのが人間の弱さであり、また人間らしいところでもあるのかもしれない。これもアフリカに限らずどこでも起こっていることだ。
パトリオットはある日、客が注文していないカクテルを3杯分ほど作ってカウンターの下に隠していた。それをオーナーが見つけてしまったのだ。即座にオフィスに呼ばれ尋問が始まった。この尋問を切り抜けるためにパトリオットにはあるアイデアが浮かんだ。「あのお客さんはいつもこのレシピのカクテルを注文するから」と言う出まかせを放つ。しかしオーナーはすぐにお客さんに確認してそれがウソであることを突き詰めた。次にパトリオットが考えたのは、どこかおっとりしていて、怒られてもじっと聞くようなタイプの新人ウェイトレスのジュリーが「この作り方で作って」と頼んできたという話をとっさに考え付いた。しかしそんな子供だましのような嘘は本人に尋ねればすぐにわかること、ジュリーが呼ばれすぐに彼のウソがばれた。
ダブルでウソがばれたパトリオットは完全にオーナーの信用を失った。オーナーの「この酒は盗もうとしたのか?」という追求は激しさを増していく。しかしパトリオットは言い訳を次々とだしてくるだけで一向に白状も謝罪もしない。
おそらくオーナーは彼が罪を認めて謝罪をすぐにしていれば解雇するまでには至らなかっただろう。しかし彼は嘘を付き、もっと悪いことに自分より立場の弱いものを陥れようとした。それにオーナーは激怒して胸ぐらをつかんで大声で彼に詰め寄った。勿論お客さんに見えないように会計オフィスのドア閉めて。

全てのスタッフではないが彼らの殆どは、何か疑いをかけられて質問されると面白いくらいにその質問への答えを返さずに、頓珍漢な言い訳や返答が返ってくる。イエスかノーか?という質問でもイエスかノーの答えは返ってこない。圧倒的に強く詰問した時は何とか答えは得られるが、必ずbut...とスカートの裾を踏まれる。論理だって話を進めようとすると本当にしんどいことがある。これだけの数そういう場面に遭遇するとこれはもはや社会現象とすら思えてくる。
かつても自己弁護のきらいが強いことは書いたが、この背景には常に自分の失敗やミスが明らかになった時にひどい目に遭わされるという「怯え」が見え隠れしているように思う。

誰だって失敗した時、罪を犯した時はできるだけ自分の罪を軽くしたいと思う気持ちはある。だから言い訳をする。でもその言い訳は多くの場合徒労に終わる。徒労どころか悪印象さえ相手に与えてしまう。それを彼らが分かっていない。のではない。言い訳することが徒労に終わったり、悪印象を与えるのは日本や西洋だからなのではないか、ということ。

少し生き物の世界のルールに沿って話したい。自然淘汰という言葉は人間世界にも比喩的に用いられるので聞いたことがあると思う。日本だったら高校の生物でも習うし。
寒い環境で生きるウサギみたいなものを想像してほしい。ウサギは毛がモフモフで可愛いなぁ。とは言ってもその毛は本来は人間に愛でられるためにあるのではなく、寒さや外部の刺激から身を守るためにある。寒い環境で毛が細くモフモフで保温性に優れた奴と、毛が剛毛で粗い保温性の劣る奴では、その他の性質が同じ場合、毛が細い方がそうでないものよりもより寒さに強く生涯のうちで多くの子供を残せることは容易に想像できるだろう。そしてこの毛の性質が遺伝的に決まっているものであれば子の世代には細くて保温性に優れた毛を持ったウサギがそうでないものよりも多くなる。それが何世代も続けば寒い地方ではモフモフウサギが固定されてくるわけだ。これが自然選択。
しかし暖かい地方ではどうだろう?保温性が高すぎると熱がこもって熱中症になってしまう。ウサギは暑さに思いのほか弱い。だから暖かい地方のウサギは毛はあるが、剛毛で密度が小さい。気がする。正確に調べたことはないが。
またウサギの耳は発熱の役割も持っているので暖かい地方のウサギ耳は大きく、寒い地方の耳は小さい傾向がある。

何が言いたいかというと、あるものの性質というのはそれが生活する環境が大きく影響しているということと、それが優れているかどうかも環境に大きく左右されるということ。だから生物には絶対的に優れたもの、最強の生物なんて存在しない。敢えて言うなら現存する生物はみな最強。

人間の性質も同じ。
アフリカでは自己弁護が徒労に終わらないし、それが日本ほど悪印象になることも少ないように感じる。それは彼らの社会が論理よりも対話の積み重ねが大事であること、あまり後に引きずらない性格であることに起因しているように思う。さらに「あいつは俺のことをよく思っていない。俺の○○がなくなった。あいつが盗んだに違いない」と言ったようなとんでもない嫌疑が頻繁に降ってくる。これではうかうかしているととんでもない嫌疑をかけられる豚箱に連れていかれてしまう。

一方日本はどうか?
色々な決まりが定められ、科学や技術に裏付けられた論理が大事にされる。日本は相手への印象からその後のその人への対応を決定する因果応報の傾向が強く、印象が後に引き続く。さらに日本では潔いことを良しとする文化、加えて比較的人を疑わず、それゆえとんでもない嫌疑をかけられることが少ないという性質のために言い訳する人が少ないように感じる。


人間の社会ってのは複雑で見ていて飽きない。そして私も誰かに観察されて面白いと笑われているのかもしれない、と思うと益々まともになんて生きていられない!

2014年6月16日月曜日

受け入れるか、去るか


レストランだからたくさんのフォークや皿がある。それが少しずつまるで計画的なリストラでもされているんじゃなかろうかという風に姿を消していく。しかも去り際は極めて静かに。レストランの七不思議の一つだ。
万が一お客さんが盗んだとしてもスタッフが下げ膳時に気が付くはずなので、おそらく七不思議を起こしているのはスタッフだろう。フォークやスプーンは完全に消えていると経営者側が嬉しゅうないと考えたのか、一枚のスチール板から切り出したような安っぽいフォークが据え戻されているからなんだか憎めない。まぁ経営者は気付いているんだがね。

そんな中で最近少し高価なものがいくつか失くなった。小型の無線機と、あるスタッフの携帯電話、そしてすり鉢。さすがにこう立て続いてなくなると経営者側も見過ごせない。
携帯も無線機も管理していた者が数分のあいだ目を離した隙に盗まれた。すり鉢は陶器製だったことと擂り粉木は残されていたことから盗みではなく、おそらく誰かが割ってしまいそれを隠ぺいするために捨てたものと思われる。ものを壊してしまったら減給はそう簡単にはしないからとにかく報告しなさい、と経営者は訴えているが、スタッフは給料から差し引かれると思って隠そうとする傾向がある。やはりそこでも両者の信頼関係が希薄なことが窺える。そしてアフリカの一般的な教育が過ちを正直に謝罪するような人間を育てるようなものではない。失敗して謝罪したらそれは負けで、大変な目に遭わされることが多い。だから彼らは行動を咎められて、まずすることは自己弁護だ。そして追求者の話しを巧みに(?)逸らして、なかったことに持って行く。もうこればかりは社会が作りだしている現象としか言いようがない。社会が変わらないとこのような自己弁護の傾向はなくならないだろう。

そして経営者は全てのスタッフの減給に踏み切った。3%-8%くらいだ。給料の多い少ないにかかわらず定額を差し引いているのでパーセンテージに開きがある。これはただでさえ少ないスタッフにとっては深刻だ。減給の目的は相互責任を負わせることで相互の監視を促すことのようだ。いわゆる五人組制度だ。しかしこれは一種の危うさを潜ませていると思う。まず第一にスタッフ間に相互不信が芽生える可能性があること。第二にスタッフ間で誰かを貶めることが容易くなる危険があること。大らかなアフリカでそのようなことが起こる可能性は低いかもしれないが、何でも起こるのがアフリカである。五人組は協力を通じて一体感を授けチームワークの向上をもたらすが、一斉減給による相互監視には協力という面での繋がりはなく、相互不信を生むだけだ。おそらく長期的な目で見たらあまりいい方策ではないだろう。しかしとにかくどうしたらいいのかわかないので実験的に減給をしてみたといった感が強い。

仕事を終えて日付が変わろうとしている時間にスタッフ全員が集められ、全員減給の旨がアリフより伝えられた。その日は特に質問はなく意外にみなすんなりと受け入れたようだった。おぉ、さすがアフリカ。運命という川には従順に流れ従うのか。と思った。

そして今日がちょうど給料の前借ができる日だった。一人ずつ私の部屋に呼ばれ(なぜか私の部屋を使う)、チャールズが一人一人に減給額を伝える。開店当初から働いているコールはその長い体をかがめて椅子に座るチャールズとやり合っている。彼はトランシーバーが盗まれた時にはまだ出勤していなかったといって説得しようとしていたが、チャールズのゴリ押しの一言「減給を受け入れるか、それとも去るか?」の一撃で落ちた。次にやってきたのはこれまた古参のヨークだ。減額を聞いてショックだったらしく、チャールズに「ちょっとそれは多すぎるよ」と言っている。しかしチャールズは怯まない。全員が同額減給されているんだ、と言って説得に掛かる。しかしヨークも負けていない。少し声を震わせながら弱った様子を見せて同情を買おうとする。いや、実際に弱っていた。さらにチャールズが大声を出して「減額は絶対だ」と声を荒げると「そんな殺生な、多すぎるよ」ともう泣きそうだ。チャールズも面倒くさくなったのかとどめのイチゲキが口を衝いて出る。「減給を受け入れるか、それとも去るか?」

もうここまで来ると並大抵の猛者でもなければ心が折れてしまいそうなものだがチャールズは譲らない。とどめの一撃があるから。同情心が湧いてしまうアリフではこのういう役は良くも悪くも務まらないだろう。他の者はチャールズに歯向かっても無駄だということが分かっているので「ちょっと厳しいなぁ」と言って受け入れていく。新参者のロナルドは減額を知らされて明らかに動揺していた。すぐに「少し待って下さい、アリフに確認してきます」と言ってアリフのもとへ助け舟を貰いに行った。アリフも減額には同意していたので受けうつけられず。さらにチャールズの怒声に引き戻される。「おい!何でアリフんところへ行くんだ?俺が話している最中だろ?」と言って怒声を張る。もうロナルドはタジタジだ。いくつか言い訳を言ったが、チャールズの一撃「前借で買った自転車を置いて去るか、受け入れるか、どっちだ?」の前に彼も安らかに撃沈。

調理方はチップを貰えないので減給にはシビアに反論してくるが、給仕方は一日分のチップで挽回できることもあるので意外と引き際がいい。気が利きサービスが行き届いているキジトウは常にいい額のチップを得ている。彼はスマートだ。減額を聞かされても「昨日既に聞いています」と言ってあっと間に去った。さらにいつも「ぉはよう!」と可愛らしく挨拶をしてくるアニータは減額を聞いても全く動揺せずに、むしろ前借を貰えてうれしいのか去る時には鼻歌を歌っていた。アニータのこういう所がたまらない。

そうして無事に全員の前借り兼、減給の旨を伝え終えたリチャードは意外にもさっぱりして楽しそうな顔をしている。並みの人間だったらどっと疲れが出てきそうなものだが彼はタフガイだ。「みたか?どんなに反論してきても、去るか残るかを問えばイチコロだろう?」と言って笑っていた。

2014年5月25日日曜日

太陽と北風

太陽と北風という話があったが、今働いているレストランの経営者の二人の性格がそれを表現しているなあと思うので少し紹介したい。

アリフとチャールズは日本料理屋で働いている時に知り合って、ビジネスパートナーとしてともに異国の地ウガンダで日本食レストランを開いた。
アリフの経営におけるモットーはさすがカナダらしい「働く人みんながそこそこ満足できるような経営」を目指している。一方チャールズはいかにもアジアらしい全体主義的な「個々が多少は我慢して全体的によくしよう」というものだ。この信条の違いはあらゆる場面で現れてくる。例えば休日について。アリフは事前に報告すれば休日の変更は可能だがチャールズは一切認めない。体調不良のための早引きもアリフは話を聞いて判断するが、チャールズは冷たい程に許可しない。まかない料理もアリフは充実させて満足いくようにさせたい、と考えるがチャールズは決められた額でやらせようとする。給料もアリフは能力によって比較的簡単にあげようとするがチャールズはあまりそれに乗り気ではない。
一見するとチャールズが冷たく厳しすぎるようにも見えるが、単純にそうとも言い切れない部分がある。例えば休日を急に連絡なしでいれたり、偽りの理由をでっちあげたり、どこまで信じていいかと言われると日本のように信用できないのが現実だ。
どちらにも分があるので何とも言えないが、アフリカンに対してアジアの厳しく締め付けるやり方は難しいのかな、とも感じる。かといって緩くすると舐めてかかるということもあるのでバランスが大事。だからこそこの二人は正反対の信条を持ちながらもくっついたのかもしれない。その間に挟まれ時々悶えながら、私は楽しんでいる。

2014年5月13日火曜日

ルパン

フィリピンでもルパンは人気のアニメのようでチャールズがルピーン(英語発音はルピンなのだそうだ)と言ってレストランのスタッフを罵っていた。というのも私が店に働き出して三日目に大規模な横領が発覚したのだ。店の帳簿管理がおざなりなため正確な数字はわからないが、毎日ではないが取られた日は一日当たり4万円ほど、多いときは12万円程掠めとられていたようだ。そんなに大量のお金が盗まれていたのに気付かないのは管理する側の問題ももちろんあるが、常に疑ってかからなければいけない社会というのは寂しすぎる。今までもサーモン一尾、ワインをケースごと盗まれたことがあったようで、それが原因で経営者側はアフリカ人スタッフを全く信用していないうえ、やはりどこか距離を感じる。

盗みの主犯格と見られるレジ係の二人は翌日即刻クビ。そして証拠はないがかなりのアフリカ人スタッフも関わっていると経営者側は疑っている。しかし警察沙汰にする気はないようだ。警察に届けてもお金は返ってこないから、と言うのが理由だそうだがもっと事情が複雑なように見える。

さてどうやって見つかったか。その日はとても忙しい日でかなりの売上があったと思われる。しかし店を閉める時にオーナー自らがコンピュータに記録された売上を計算すると思ったよりもかなり少なかった。そこで何かがおかしいということに気が付いたようだ。それでパソコンの売上登録を調べていくうちに事態が発覚したというわけ。レジ打ちの一人は罪を告白したようだが、もう一人はかなり動揺しながらも白状しなかった。しかし彼が最近トヨタのランドクルーザーを購入しそれで通勤していたことが目撃されており、そして服装も携帯も彼の給料ではとても買えないような代物を持っていた。それを問い詰められた彼は姉に買ってもらったという。
そしてもう一つ、スタッフには毎日昼と夜に賄い料理が出されるのだが、それが近頃手を付けられずに廃棄されているのが見られた。飯は他で食えるからいらないとでも言うかのように。事態が収拾した後は廃棄はそこまで多くなかったので、やはり他のスタッフもなんらかの形で甘い汁を吸っていたのだろう。

何が問題なのか。これだというのは難しいが、見ていて感じるのはスタッフと経営者の両者が表面でしか結びついていない、信用し合っていないことがあげられる。しかもそれはどこで始まったかわからない悪循環によって生み出されていると思うのだ。アフリカでは極めて普通だが時間外でも働かせられる。安定したシステムがないので弱いものが一番追いつめられる。などスタッフが持つ不満は大きい。そして何かあると代わりがいくらでもいるのですぐにクビにされるという怯えがあり、嘘を付いて保身に走る。だから経営者側も期待している成果を得られず益々苛立ち、更に嘘ばかりで本当の情報が入って来ることがなく、うまく行かない。オーナーのアリフは経営が落ち着いたら、スタッフの給料をもっとあげて医療保険もつけてやりたい、というビジョンを持っているがそれがなかなか形にならず、またスタッフとの対話が少ないために伝わっておらず未だに難しいのが現状だ。

ウガンダにおけるレストランのスタッフの支払われる額としてはそれほど安いものではないが、やはり一日12時間働いてそれほどではあまりモチベーションもわかないのではないか、と思う。オーナーは経営が圧迫されているので自分はあまり給料は取っていないというが、それでもアフリカンスタッフとは比べものにならない程いい生活ができる。誤解のないように断っておくが、ウガンダにおいてはアリフはかなりスタッフを優遇している方である。ただ、客四人くらいが一食食べると彼らの一カ月分の給料ほどの値段。ウェイターはそれらたったの一食に惜しげもなく払われるお金をどういう思いで受け取っているのだろう。利益が出ても横領されて帳消し、低賃金が繰り返され、さらにスタッフの鬱憤が溜まりまた別の横領、、、悪循環を断ち切るのは難しい。

横領や不正はアフリカでは頻繁に起こっており、この図式は一レストランに限らず、国レベルにも当てはまる。


2014年5月10日土曜日

風邪の誕生日プレゼント

一週間前から流行りの風邪を貰い、微熱が続いていた。そして今日は三十の誕生日だというのに高熱が出て仕事を早めに上がらせてもらい寝込んでしまった。またしても39度を越える熱だ。アリフもチャールズも数日前に熱が出て病院に掛かっていた。私も微熱が出てはいたが、マラリアの疑いはなかったのでしばらくすれば治るだろうと思って行かずにいた。

しかし高熱が出るとやはり不安になる。ましてや微熱が続いて体力が消耗していたのでマラリア発症の可能性は高くなる。今日行くべきかな、、、?とベッドで悶えていると仕事を終えたアーロンが「病院に行くか?」と部屋を覗きに来てくれた。それで決心がついた。いちいち悩んでないで血見てもらって白黒つけてもらおう。
そうしてひどい頭痛があったが少し食べて解熱剤飲んで待っていると、店じまいを終えてやってきたアリフとチャールズも付いてくるような雰囲気になった。
結局三十路になる男が三銃士に付き添われて血液検査をしに病院へ行くことになった。その光景はまことに珍妙なものだったろう。病院に行くのにどこか楽し気でジョークを飛ばしあっている。傍から見たら夜中にえっちなピクニックにでも出かけるかのようだ。


病院に着くと受付があり、そこで先に支払いを済ませるはずなのだが(アフリカはお金がないと診療してくれない、シビアだ)、係りの者がおらず先に問診を受けることに。静かで清潔感のある深夜の病院の廊下を四人の男が看護師に案内されて行く。病室に入ると若い男の看護師がテレビに夢中だったようで、面倒くさそうに先生のいる方を指さす。問診は髭の剃り跡が青いアラビア系の先生だった。何となく女性っぽい仕草で丁寧に聴診器で診察してくれたので、なかなか好感が持てた。同性愛が禁止されている国だが、頭が熱でおかしくなっていたためか「あーここで彼がカミングアウトしてきたら俺はなんと答えればいいんだろうなぁ」なんて考えていた。次へ案内してくれるはずの看護師はやはりテレビに夢中だった。そして日本の病院のような採血室で血を採って、再び廊下で待つことに。結果は思いのほか速くでた。
結果は陰性。
しかしまたしても細菌感染しており、それで高熱が出ていたようだ。事務室の清掃で汚い空気を吸い過ぎたか???

そして抗生物質と咳止め、解熱鎮痛剤が出されるとのことで受付の方に戻る。解熱剤が本格的に効き始めていたのと、検査によってマラアリアでないという安心を得たことで、寒々していた廊下も今はただの清潔な廊下だった。四人のおっさんがひたひたと廊下をゆく。突然アリフがハッピーバースデーを歌い始め、それにアーロンとチャールズが加わる。ちょ、ちょ、ここは病院だよー。何だか心配で疲弊していた心がとろんと温かみを増してきたが、私の冷静な部分が廊下を行き交う看護師や事務員を観察していた。ところが、看護師らも別に咎めるような顔をしていなかったので、私も純粋に心を開いて、彼らのハッピーバースデーを中心にじっくりと染み込むままに任せた。そしてケーキをプレゼントしてあげよう、とアリフが言うので「あぁ、でも抗生物質を埋め込むのを忘れずにね」なんていう冗談を私も飛ばせるほど気分が楽になっていた。

30という節目を妙な形で迎えたが、今までの人生で培ってきたことを最大限に生かして、良く生きていこうと思った。そんな一日。

そんなあっけらかんとした仲間たちです。

2014年4月25日金曜日

あいびき

臨時採用のマネージャー、マーク(22)は羨ましい程にイケメンだ。いくら私が化粧をしてPhotoshopでいじくりまわしても彼には敵わないだろう。南国の遠浅の眩しい海のような青い目に秋の明るい麦畑を思わせる金髪、そして筋の通った目鼻立ちに血色のいい唇。更には身長も高くがっしりしている。彼自身その美顔を与えてくれた親に感謝していると言うほどに自信を持っていた。私にも「どうだい、きれいな目だろう?」といってよーく見せてくれた。ふん、当てつけか、どうせ俺の眼はマンホールみたいな色だよ、と思ったが、「うむ、素晴らしいね」と褒めてやった。

彼はまた話しも巧みで声も艶があり、多くの女性客を虜にしていた。中身はともかくとして本当に話は巧い。彼の話術に掛かったら結構気持ちよく落ちることができるんじゃなかろうか。彼から一つレッスンを受けてみたいもんだね。女の口説き方というやつを。

天から授かりし類まれなる能力を最大限使って彼は人生を楽しんでいる。
そんな彼も風邪はひく。そして仕事を休む。しかしそんな時でも彼の本能が彼をベッドに放置させておかない。仕事はできないというが、レストランのテーブルにちゃっかり座って女性客と楽しくておしゃべりしている。酒も飲んでいるからきっと本当に悪いのだろう。あまりに体調が悪すぎて正常な判断ができなくなっていたに違いない。そんな彼を見てチャールズは疑心を持ったが、アリフは訝しがりながらも大目に見てその時はそれで済んだ。

そして別の日に再び調子が悪いといって休んだ。そして病院にいってマラリアと診断されたようだが、その夜元気にバーでよろしくやったようだ。マラリアはきっと小さいマラリアと大きいマラリアがあって、彼のは小さいマラリアだったのだろう。

そんな楽しい人生を過ごしている彼には法律というものはない。
ウガンダは麻薬について比較的厳しい法律を持っている。いつも彼の部屋に荷物を置かせてもらっている私は、その日彼の部屋に行くと、彼が鼻から何か白い粉を吸い込んでいる。まったく鼻から粉砂糖を食べたら辛いじゃないか、どうして口から食べないんだ?という冗談すら出て来なかった。いやーこやつほんと人生楽しんでいるなぁ、と思った。彼は言う。「コカインやるとすごい集中できるんだよね、少しあげようか?」そうか、君の女性を口説くその集中力はコカイン由来だったか。仕事に集中しようや。

更に言うと彼はクリスチャンだがキリスト教のモラルという壁も一っ飛びだ。
ある日昼食の時間が終わって休憩に入った。彼が女性を連れている。小麦色のきれいな肌で、目がしゅっと柳の葉のように流れている。美人だ。お尻が大きく全体的にふくよかでグラマラスな女性だった。アフリカンとヨーロピアンのハーフだという。ついでに言うと人妻だという。マークは得意げに言う。旦那が忙しくて相手してあげていないから、俺が変わりに相手してやるんだ、と。これからよろしくやるから部屋には誰も近づけないでくれ、と言った。あいびきか。。。
本当に人生楽しんでるな、こいつーと思いながら、あと30分でレストラン始まるからちゃちゃっとやってくれよ、とお願いすると「任せとけ」といった風にウィンクした。まったくウィンクして様になるやつを始めて見たよ。
もちろん30分なんかで済むわけはなく、彼はその日も出勤に遅れた。

そんな感じで自由奔放に生きていた彼はやはりオーナーから見てあまりよろしくなかったようだ。任期を一週間残してクビにされた(他にもサブオーナーとの確執があったことにも起因しているが)

そんな彼だったが、困っていた私をレストランに迎え入れてくれた最初の奴だったから、何となく彼のクビは残念だった。まぁその後も近所のバーで楽しんでいるのを見かけたから、きっと彼くらいにイケメンだとクビくらいなんてことないのだろう。

首いらず 顔だけ生きる イケメンや

2014年4月17日木曜日

レストランにて

レストランはなかなか繁盛している。しかし値段が一食1500円~3000円なので客層はローカルのウガンダ人は稀で、アジアンやヨーロピアンが多い。ウガンダにいても一足レストランに入ると別空間の様子だ。現在は仕入れの難しさから値段を下げることはできないが、今後仕入れルートが確立すればもう少し手ごろな値段に落とせる可能性はある。そしてウガンダの経済も発展して行けば本当の意味でのアフリカへの日本食紹介になるだろう。
オーナーのアリフは将来的にはローカルへも供給して行くことを考えている。日本に行ったことはないのに、全く頼もしい人だ。そういうモチベーションのある人を是非一度日本へ招待したいものだ。

大使館のそばにあるため大使館職員の方が利用したり、JICA職員、ボランティア、南スーダンに派遣された自衛隊の方々もよく見える。客全体の一割強くらいが日本人だ。だからレストランのスタッフは日本人がどういう人々なのかよく観察しており、なかなか彼らは好意的に見てくれている。アフリカンがアジア人を見分けるのは難しいが、彼らはどれが日本人かだいたいわかるようだ。以下彼らの見る日本人を少し紹介したい。

*カッコ内は日本人としての推測を書いた。

・寿司を食べないで丼ばかり(外国で生ものを食べるのが怖い、やはりどうしても日本と比べて味が落ちるのでわざわざここで食べなくとも、、、)
・チップをくれない(サービスが不十分なのか、日本にその習慣がないからなのか)
・世界で一番平和的な人々(あまり主張をしないせいか)
・ビールをよく飲む(とりあえず「生」の習慣が海外でも出てしまうのだろう)
・注文をそろえる(例:ビールならみんなビール、たしかに。。。)
・から揚げが好き(外国ではあまり見かけないからね)
・慎ましい(行き過ぎの場合もあるけどね)

ね、意外とよく観察しているでしょう?あまり変なことすると、それが日本人と思われてしまうから気を付けましょう。

2014年4月10日木曜日

仕事探し

*今日以降しばらくの出来事は仮名を使用してならと、記事にする許可を貰ったので仮名を使用します。


朝は少し冷え込んで清々しかった。溢れんばかりの朝日が芝生の露を煌めかせている。今日は勝負時だ。しっかり食って挑まねばならない。昨日買っておいたパンにたっぷりの蜂蜜を塗り、次々に頬張る。濃厚な蜂蜜が脳を刺激し、気持ちが高まってくる。しかし不安がなかったわけではない。それ以上にトルコへ行きたい、という気持ちが強く、仕事と寝床を確保するまでは何日でも粘ろうと心に決めた。

そしてカンパラへ向けて出発。すでに町並みは田舎という風ではなく、道路沿いには人が溢れかえり、都会の雰囲気を十分に呈していた。それもそのはず一時間ばかり走るとそこはすでにカンパラだった。ボーダ・ボーダ(バイクタクシー)がそこら中に溢れ、車と車の間を縫って進んでいる。高い建物や電波塔も見えてきた。
町はブルンジとルワンダで聞いていたカンパラそのものでかなりの賑わいと活気を持っていた。ブルンジとルワンダは内戦のために国が疲弊し、他の東アフリカ諸国と比べても経済力は小さい。その国民が隣国の近い文化を共有するウガンダへの憧れを持っても不思議ではない。そういう羨望のようなものを道中感じていた。そして私は今、彼らが夢見るカンパラにいる。


さてここからは本気だ。まずは小さな中華料理店に頼みこんでみようと決めた。大きな店よりもできることが多そうだし、就労ビザがなくても何となく働けそうな気がしたからだ。
都市に入って困るのは自分の所在地だ。いつもは一本道をただ進んでいればいいので迷うことはないが、町は難しい。地図には通りの名前があるが、実際の通りには名前がかかれていない場合が多い。ボーダ・ボーダの兄ちゃんたちに尋ね尋ね何となく自分の位置がつかめてくる。しかしどこに中華料理店があるのかわからない。一生懸命今までのアフリカで中華料理店がどういう場所にあったかを思い出し、それっぽい雰囲気の街中を彷徨うが、見つからず。ボーダ・ボーダの男たちに教わった中華料理店に行ってみると、中華料理店ではなくイタリア風レストラン(名前がチャオだったからねぇ)だったり、結局見つけられずに舞い戻ったり。これはなかなか時間がかかるかもしれないと一服を入れた。
たどり着いたのがインド人が経営するスーパー。ここに来てわざわざレストランにこだわらなくてもいいかな、と思ってオーナーのおじさんと話しながら人手が足りないか探ってみると、残念ながら来月にはインドに帰ってしまうということだった。それでもアイスを食べながらおじさんのビジネスの話や私の旅の話をしてしばし寛いだ。

そして大きい中華料理屋の場所をおじさんは教えてくれた。それがある町の中心へ向かった。春のような穏やかな青空を窓ガラスに映し出した高いビルディングが立ち並び、さすがに都会といった風である。アフリカの交差点は信号よりもラウンドアバウトが多い。ラウンドアバウトとは交差点を中心に道路が円状にしかれており、交差点に進入する車はその円状の道路を時計回り(左側通行の場合)、つまりは左折しながら入り自分の進みたい道路のところまで円を描きながら進み、左折して出ていくシステムのこと、またはその交差点を言う。このラウンドアバウトは車が多いとカオスになっている。そしてカンパラの街に毎日渋滞を引き起こすのだ。そんな渋滞の車の隙間をボーダ・ボーダは車すれすれ、時にはぶつかったりぶつけられたりしながら進んでいく。あたかもパチンコの玉が落ちていくように。

中心部は丘にあるので自転車にはきつい。そして容赦ない車やボーダ・ボーダ。ラウンドアバウトを通るのが怖い。マグロの群れにイワシが一匹飛び込むような気持ちだ。それでもボーダ・ボーダに道を聞くと丁寧に教えてくれて、しまいにゃ自転車で旅しているのに驚いて、道で売ってるバナナを一房買ってくれたり。ボーダ・ボーダはどうしようもないのもいるが意外と気のいい兄ちゃんが多い。一つ目の中華料理屋兼ホテルにたどり着いた。おぉ、デカい。気が怯んだ。レストランに行くと内装も立派なうえ、料理の値段も高い。これは怯んだよ。初めだったし。それでもオーナーと話をしたいと申し出ると、ウガンダンのウェイトレスが案内してくれた。「無理だと思うよ」と漏らしながら。

事務室に通され秘書が対応してくれた。「アポイントメントはある?」「ありません」(しまったー!あまりにラフな生活が長くてアポイントメントの存在を忘れていた!)
「一応聞いてみるけど就労ビザもないんじゃ無理だと思うわよ」と言って中へ消えていった。そしてすぐ戻ってきて「やっぱり駄目ね。お金がないなら日本大使館に行くべきよ」と言われてしまった。確かに君の意見は正論だ。しかし私は無一文なのではない。飛行機で帰れるだけのお金は残してある。正論なんだけど今の私に必要なのは大使館ではない。こういう正論が出てくる秘書のいる秩序ある場所では働くのは無理だ。私が求めているのはもっとカオスなところだ。例えばオーナーが寝坊してレストランが開いているんだかわからないとか。。。粘っても勝ち目はないと踏んだ。なーにまだ一つ目だ。

そしてすぐ近くにあるということでまたしても大きな中華料理屋へ向かった。レストランに入るとすぐにウガンダンのウェイトレスが取り合ってくれた。そして今度は「仕事見つかるといいわね」と微笑みながらオーナーまで案内してくれた。今度はオーナーと話すことができた。しかし最近人員を補充したばかりで足りている。そもそも外国人は人件費が高いのでウガンダンしか雇わないと言って断られた。
大きなレストランは無理だと踏んでいたのでこれは想定内だ。さぁこれからが本番だ。意気揚々とレストランから去る際に先ほど案内してくれた輝くウェイトレスが「この近くに日本食レストランがあるから行ってみるといいわよ」とアドバイスしてくれた。
ガイドブックで日本食レストランがあるのは知っていた。しかし日本人と働くのよりもせっかく外国に来ているから日本人のいない場所で働きたいと考えていた。そっちの方が英語力も伸びそうだし、日本では学べない色んなことが学べそうだ。だから日本食レストランは最後の切り札に取っておこうというのが当初の予定だった。

しかし私は怠け者だ。せっかく近くにあるんだから通りすぎるのは勿体ない、この際順番はどうでもいいということで納得した。日本大使館のすぐ近くと聞いていたが日本大使館がどこにあるのかわからない。日本大使館なんていう多くのウガンダンにはかかわりのない施設のことなどボーダ・ボーダが知る由もない。それでも何とか色んな人に聞き渡り日本食レストランは見つけることはできた。しかし未だに日本大使館の場所がわからない(一週間後くらいにやっとわかった)。もっと日の丸を高く上げてくれりゃすぐにわかるのに。

ゲートを通るとこの奇妙な客に黒いスーツを身に纏った体の大きなベルギー人のマークが近付いてきた。自転車乗りに興味のあるお客かなと思って話したら、臨時で雇われていたマネージャーだった。彼は自転車で突如現れた珍客に興奮している。そして唐突にジブリの千尋のように「ここで働かせてください!」なんて言ってくるもんだからますます興奮して、まぁまぁちょっと寿司でも食いながら、、、と言って結局寿司と照り焼き丼をご馳走になってしまった。そして彼は臨時マネージャーなので判断できないが、きっとオーナーは喜ぶと思うよ、と言って興奮を抑えきれない様子で電話をし始めた。
あぁ久しぶりの和風の料理を食べた。旨かった。そしてオーナーのビジネスパートナーであるフィリピン人のチャールズも加わって、オーナーがやってくるのを待った。オーナーはタンザニア生まれインド系カナダ人という。ん???ちょっと待てよ、日本レストランなのに日本人はいないのか?と思って尋ねると、日本人なしで創業以来やってきているという。聞くとフィリピン人の料理人が二人とフィリピン人のチャールズ、そしてベルギー人のマーク、そしてオーナーのアリフで、他の料理人、ウェイターその他のスタッフはウガンダ人かケニア人だ。それを聞いて驚いた。そして更に言うと誰一人として日本に行ったことはなく、外国にいる日本人から日本のことを聞き教わったという。料理もフィリピンにある日本食レストランで働いていたときに日本人から教わったのだそうだ。そういえば南アフリカの日本食レストランにも日本人はおらず中国人が経営していることが多かった。そうやって日本食が外国の人の手で広められるのはなんだか危なっかしくもあり、頼もしくもあり、そして誇らしくもある。

オーナーのアリフがやってきて、あれよあれよという間に働かせてもらえることになった。パソコンとカメラがあるので広告やメニューのデザインができること、新たなメニューを追加できることを挙げて押したら、意外とすんなり通ってしまった。しかし日本の料理屋で働いていたことが重要だったようだ。とは言ってもアルバイトで数年やっただけなのだが。そしてテストとして日本の日本酒と、韓国産の日本酒を出されて味の違いが分かるかと試された。正直わからなかったら雇ってもらえないのか、とドキドキした。違いはわかるがどちらがどっちと聞かれたらわからなかっただろう。韓国産の日本酒なんて飲んだことないし、日本の酒だって旨いのからそうでないものまでピンからキリまである。まぁ彼の質問の仕方に救われた。

そうして私はカンパラの日本食レストランで二カ月くらい働くことになった。これはもう少し旅をして帰りなさいという思し召しだろう。はい、何なりと従います。
しばらく自転車君は休息だ。