ハラレの町を当てもなくぶらぶらと歩きながら写真を撮っていると酒場の前でおじさんに呼び止められた。
艶のあるグレーのスーツにすみれ色のシャツ、ブルーのチェックのネクタイだ。
さすがは都会、呑兵衛もおしゃれだ。
気が付くと飲み屋の入り口には同じようにシーツに身を包んだ男が5-6人立っている。
ビール瓶を片手に少し派手目なスーツを着ている彼らは、日本的な感覚からすると少し怖い。
先のおじさんは私の写真は撮らんでくれ、といった手振りをしている。
えぇ!?いいじゃんー、スーツを着た呑兵衛なんて珍しいんだから。
なんていうやり取りをしていると、一杯どうだ?とビールをおごってくれた。
その後もなかなか持って下世話な下ネタや「女はいらんか?俺が紹介してやろう」なんていう気の利いたことを言いながら、会話は彼の仕事の話になった。
嘘か真か弁護士というではないか。
なるほどそれでスーツに身を包んでいたわけだ。
その店ではずいぶん顔が利くらしく、ビールをツケで呑んでいた。
ジンバブエを旅しやすいのは、アフリカを知りたくて旅をしていると言うと「そうか、そうか、存分に見ていってくれ」と歓迎してくれる。
そして次には「で、ジンバブエはどうだ?」と聞くのである。
ジンバブエは独裁国家だの、貧困が激しいだの、経済が崩壊しているだのと、欧州からの批判が多く、色々なメディアにあまりいいことを報道されていないことから、やはり自分の国が外国の人にどう見られているのかが気になるのだろう。
それで私は人がとてもフレンドリーで旅しやすいね、と言うと、嬉しそうに、だろ?だろ?メディアはいつも嘘ばかりだ、と勢いづくのだ。
ジンバブエに対する欧州からの批判が多いのは白人を追い出したからだ、と考えている人もいる。
少しひねくれてしまっている感がないでもないが、ジンバブエで感じたのは自分の国に対して誇りを持っているということだった。
自分の国を旅行者に好きになって欲しい、それは健全な国民感情なのだろうと思う。ボツワナやナミビアでも感じていたが、ジンバブエに入って顕著に感じられるようになった。私だって日本はいい国だと言われればうれしいし、逆に批判されると悔しい。
日本でもジンバブエっていうとあまりいいように報道をされていない。
報道は人々の興味あることをピックアップしているので、なかなか日常風景なんていうノホホンとしたものは取り上げられない。
そしてジンバブエが持つ話題性といったら経済が破たんして、国庫に数万円しかなくなっただの、HIV感染が激しくて孤児が多いだとかっていうくらいしか日本人の興味に引っ掛かるものはない(最近はアフリカ全体が資源の供給先として世界中から注目され始めはしたが)。
それは公的な報道の性格の一側面としてあり、どうしても避けては通れないことだろう。
そういう報道で漏れてしまった日常風景を私はこの場で伝えられれば、と考えている。
ビールを一本空けると、まぁもう一本いけよ、と勧められたがまだ油断できない場所に行かなければならなかったので、有難くも断った。
それから彼とは握手して、彼は「よい旅を」と言って別れた。
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