数日前から頭から肩にかけてだるい、という風邪の兆候があった。それが悪化し昨日から熱が出ていた。しかし一泊$9もするような場所にそう長くは滞在できない、と思い翌日までには治すと、意気込んだ。おそらく自転車をこいでないから怠け病にかかったのだろう。初め熱が出たときはマラリアか?と思ったが急激な発熱ではなかったので安堵した。出発当日、熱は下がったが少しだるさが残っていた。それでも漕いで汗かけば熱も下がるだろう、と出発。
天気がよく気持ちの良い朝だった。大使館や高級住宅が並び、ジャカランダやフレームツリーの並木が美しいハラレの北部を抜け、チノイ(Chinhoyi、初めチンホイと読むのかと思ってキャリーぱみゅぱみゅに歌ってもらいたい音だなぁと思っていた)への幹線道路に付く。
ハラレの中心街を抜けてもしばらくは町が広がっており、ショッピングモールなんかも見られた。タイヤのチューブの予備を一つ使ってしまっていたので、買い足す。しかしここで重大なことに気付いた。チューブにはバルブの形状に英式、米式、仏式とバラエティがあり、私のは仏式だ。仏式はスポーツバイクに多いから、実用車の多いジンバブエには英式しか売っていない。そういえば今まで道行く自転車を見てきたが、皆英式のバルブだった。いや、そもそもこっから先しばらくは英式だけなのではないか?はて困った。こっちで売られている英式チューブはバルブ分が取り外せるようになっているので、もしかしたら今使っている仏式バルブを取り付けられるかもしれない。というわけで、一応一本買っておいた。$3なり。
暫くすると町の雰囲気が消え、農場が両側に広がる道になる。緑の濃いトウモロコシが穏やかな晴れ空の下、ザワワ、ザワワと揺れている(いや、勝手にイメージの中で音が流れているに違いない)。畑仕事をしている人々が、この珍客にしばし手を休め、畑からひょこと顔覗かせる。バナナハットを被ったおじさんがのんびりと自転車をこいで、道路と並行して敷かれた鉄道レールの向こうを走っていく。人々が忙しく動いていたハラレとは違い、全てがの~んびりしている。広い農場は地域が共同して経営するコミュニティファームだろうか、トラクターが遠くの方で動いている。
ハラレが1500m近くありそこからザンベジ川の350mくらいまで下るのだが、これが一向に下らない。いや、下るのだがまた上らされるので標高1300mくらいを行ったり来たりしている。この辺りはいくつか谷筋があり川も流れているので、上って下ってを繰り返す。
ひとつ大きめの峠があり、それを越えると少し寂れてはいたが日本のサービスエリア様のものがあったので昼飯休憩を取った。腹が減ると最近はサザを食いたくなるんだから、人の胃というのは上手くできているもんだ。少し高めだったが、それでも$3。飯を食ったら眠くなってきたが、もう少し進まねば。しかし食って体温が上がったせいか、だるくなってきた。少し走ったがすぐに寝床探しモードに入った。広い農場に一本通った農道を見つけた。お、こりゃいいと、近づくと警察のチェックポイントがあるではないか。話しながらさりげなく、ここに泊まっていい?と尋ねると、人の土地だからダメだよ、と至極まっとうな答えが返ってくる。全く私はそんな小学生でもわかるようなことを警察に聞いてしまっていたのだ。警官はもうすぐ隣街だからそこで宿を探せばいいというが、私にはそもそも宿に泊まるという選択肢は都市部以外ではない。南部アフリカの宿はヨーロッパやホワイトアフリカン向けに営業しているので高い。しょうがないので農家さんの敷地にテントを張らせてもらおうと、訪ねてみた。
おばちゃんが四阿に寝転がっている。声を掛けると重そうな体をいとも簡単に持ちあげて対応に出てくれた。主人を呼んでくるわね、と消えて長靴をはいたおじさんを連れてやってきた。しかし彼はここのオーナーではないといい、ハラレにいるオーナーに電話するからちょっと待ちなさい、と木陰の一本棒ベンチを勧めてくれた。だが彼の携帯にはプリペイドのポイントが残っておらず(スマートフォンを持っている人は別だが大抵の人はいつもプリペイドがカツカツだ)、「かけてきてコール(無料でメッセージを送れるサービス)」をオーナーに送ってしばらく待つことになった。こんなに面倒なことでも仕事を中断して厭わずやってくれる。発熱ではぼうっとし始めた頭で早く電話がかかってくることを願った。果たして電話はすぐにやってきた。アフリカンタイムは電話には適用されないのだ。電話を掛けるとなったら早いよ、アフリカは。みんな電話好きなのだ。(南アにいたころ夜中や仕事中に電話がかかってきて「元気?挨拶したかっただけ」という電話が何度か友人や生徒からかかってきたのを思い出す。それほど電話好きなのだ)
さてかかってきた電話に出ると、「セキュリティに難あり」ということで断られてしまった。ジンバブエの人は何でもOKとは言わず、とても日本に近い正論を言う。「何かあっても責任とれないから、しっかりセキュリティのあるところを紹介しよう」と。日本的な考えでは当然のことだが、暑さでおかしくなった頭では、どこでもいいから早く休みたい、という思いが勝っていた。ほれ、見ろ。しっかり体調を整えて出発しないからそうなるのだ!と頭の中の良識がのたまう。
農場のおじさんは1kmほど離れた場所にセキュリティのある農場があるからそこへ案内してあげよう、と自転車を引っ張ってくれた。しかし仕事を邪魔できないから、と言って道を教わりその農場に向かった。幹線道路から農道に入ると両側にタバコが一面に蒼く育っている。どうやらタバコ農場らしい。道を左に折れると伸び切ったシャツからおっぱいが見えてしまいそうなおばさんが畑を耕すのに勤しんでいる。その向こうに柵で囲った家が見えた。
犬がいるから気を付けろよ、とおじさんに言われていたので恐る恐る中を窺うと青年が一人。話しかけるとちょっと待ってと言って体の大きな女性を連れてきた。体の大きさにつられたかのようにおっとりした方で、「敷地内にテントを張らせてもらえないか」と聞くと「オーライ」と言ってすぐに承諾してくれた。その後すぐに体の大きな男性がやってきて椅子を差し出してくれた。彼がこのタバコ農場のオーナーだ。そして大らかな女性が奥さんだ。すぐに息子が、キンキンに冷えた水を持ってきてくれた。これが最高に旨いんだ!続けざまに三杯も飲んでしまった。気持ちの良い木陰に差し出された椅子に座って旅の話や農場の話、ジンバブエの話をして時を過ごした。畑で採れたという茹でトウモロコシも出てきた。農場を見るかい?と立つとくらっとした。そうだ、私は早く休みたかったのだ。燦燦と降り注ぐ太陽の下で、動くたびにガンガンとする頭をそうっと体に乗せて運んだ。タバコ畑は三つの区画に分けられ、それぞれ植えた時期を違えて収穫時期をずらしていた。タバコの大きくてペロンとした葉がまばゆい太陽の光を嬉しそうに照り返していた。一方私はなんだ?その様は。頭が揺れないようにそうっと忍び足で、病的だ。眩しく私の葉っぱを照らす太陽が憎らしい。放っておいてくれよ!もう限界だ。オーナー夫婦に体調が悪い旨を伝え休ませてもらうように言った。すると奥さんが、「あぁそれは大変、水を浴びた方がいいわ」と勧めてくれた。む?水浴び?こんな状態で浴びたら却って悪化しないか?と思ったが、郷に入らば郷に従えという言葉通り、彼女の言に従った。
バケツに一杯水を持った奥さんが水浴び場所に案内してくれた。ワイルドな石が自然美を追求した如くに並べられ、その周りを萱の柵で覆った何とも趣きのある水浴び場である。日本の露店風呂の脱衣所思い出す。あんな趣きである。火照った顔に冷たい水が気持ちいい。体にかけるとぶるっとして頭ガンガン。何とか汗を流し、きれいさっぱりし、テントに戻り少し仮眠を取った。
オーナーの「夕飯ができたぞ」という声で目を覚ますと、辺りは真っ暗だった。シュラフにくるまって寝て、たっぷりと汗をかいたおかげで熱は少し下がり頭痛も引いた。家に通され、来たときに座った手作りの椅子を勧められる。テレビでは南アの放送が流れている。南部アフリカでは南アの影響はとても大きく、文化も経済も南アを中心に流れている。これを書いているマラウィにも南ア資本のスーパーや家電量販店、銀行があり、衛星放送を使って南アのドラマを見ている。衛星テレビのアンテナ(皿状のやつ)は田舎の茅葺屋根の家にだって付いているし、隙間だらけで崩れそうな家にだって付いている。それだけアフリカの人にとって衛星テレビというのは優先順位が高いものなのだろう。洗濯機、冷蔵庫がなくてもまずテレビ、なのだ。
夕飯はサザと鶏肉(地鶏だよ!)とコヴォ。地面で遊んだ鶏はやはり身が締まって旨い。脂肪分も少なくあっさりとしている。食べている途中で停電になったが、懐中電灯で食べ続けた。食べながら日本の食べ物や文化について話した。南アのテレビではあまりアジアのことは放送しないので、 日本の話をとても興味深く聞いてくれた。デザートにリンゴとマンゴーを出してくれた。マンゴーは緑で売れていないのかと思いきや、とても甘くジューシーで美味しかった。
食べて熱が上がったせいか再び頭痛がしてきたので早々にテントに戻る。雨が降るから、家の中にテントを張りなよ、と言われたがその気力もなかったので、そのまま寝ることにした。歯を磨こうとテントから出ようと頭を出すと、番犬君たちがテント前にやってきて吠えまくり始めたので、頭を引っ込めた。なんだお前ら、しっかり仕事をしているじゃないか。しょうがないので中で歯を磨いて、吐き出し物は飲み込んだ。あ、でもトイレはどうすんだ?もういい、その時に考えよ。。。
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