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2014年7月7日月曜日

ウガンダのロレックス

ウガンダの人は「ロレックスは身に付けるものじゃなくて食べるものだ」と言う。まさか食っちまったら価値なくなっちゃうじゃないか。価値がなくなってもいいのだ、だって一つ40円くらいだから。

私がまだロレックスを食べたことがないと言うと、「よし、じゃあ仕事が終わったら食べに行こう!」という事で真夜中の裏街に繰り出すことになった。
レストランは閑静な高級住宅街にあるのでアフリカの夜にしては静かだ。最近雨が多いせいか朝晩は冷え込む。今日も涼しく湿った空気を夜は醸し出しており、花の香りや草草の匂いが優しく香っていた。月が納戸色の空に滲んでいる。
そういう爽やかで清涼な環境から、人いきれに男と女の駆け引きがロマンスを纏って蠢く裏街に向かう。車で15分位静かな街を走る。幹線道路沿いは店やガソリンスタンドなどは数件を残して軒並み閉まっており、意外なほどに静かだ。こんな街の風景を見ているとどこににぎやかな場所があるんだという思いになるが、幹線道路を少し入った場所にその場所はあった。

平日の深夜なので人は少ないが、通りにはぼやっと薄暗いクラブが並んでいる。通りから覗いてみるとどのクラブもほとんど人がいない。鈍い光を照らされた空席だけがうるさい音楽の中、静謐に佇んでいる。闇が深く淀んだ場所には車が縦列駐車して並んでおり、セクシーな女性がぽつぽつと車に凭れるように立っている。銃を背中にぶら下げた警備員が一人の女性に声を掛けている。厳重注意?と思いきや楽しそうにナンパしているじゃないか。どっちの銃かは知らないが、俺の銃は触ると危ないぜ、とでも話していたのだろうか。とにかくそんな警備員を見ていると、ここは安全なのかな、と思えてくるから不思議だ。

明かりがあるところにはローストチキンやロレックスの店が並ぶ。しかし相変わらずここはアフリカ、どの店も本当に似たような商売をしている。ソースをいくつも用意するとかもっと他と差別化すればいいのに。。。その明かりを少し分けてもらうように地面に近いところでは女性が座って洋服を広げている。こんな深夜に洋服を買いに来る人がいるのだろうか甚だ疑問のもんチャンだが、商売があるということはそこには需要があるのだろう。その証拠にアリフとチャールズは煌々と明かりの灯った一軒の洋服屋に吸い込まれて行った。こんな時間に服を買おうとする人っているもんなんだなぁ。私も夜蛾になるべく後を追う。入り口にはマネキンがいかしたズボンを履いており、それに二人は引っ掛かったのだ。奥から体の大きなでも人のよさそうなお兄ちゃんが顔を出した。洋服はコンゴやナイジェリア、中国、タイからやってくるという。確かに先ほどのイカしたズボンには中国語のタグがついている。

TimberLandやGucci、adidasなどタグを打ったものもいくつかある。どうやってこれらのメーカーがここにたどり着くのだろうか。きっとどこか別の場所で生まれた影武者に違いない。私はお洒落に関しては、二十億光年の無頓着だが、けっこう色んなものが揃えてあって面白かった。元のブランド名が何なのか当てるのも面白かった。そんな風に商品を物色している傍らで、チャールズが店先のアフリカンサイズなマネキンが履いていたズボンを試着しながら迷っていた。明らかにサイズがチャールズには大きくてマネキンのようにイカした感じではなかったが、サイズがこれしかないために迷っていたのだった。結局適当なサイズを店主が探し出してくれるという事で今日は我慢することになった。確かにえんじ色のスキニーパンツで格好良かった。アリフは自分の足には長すぎるということを即座に認めており、試着すらしなかったが後日、小さいサイズを見つけてくれと頼んでいた。

そうやって夜蛾三人は店を出て、目的のロレックスを求めて光のある場所へ向かう。そこらじゅうロレックスの露店なのでどれがいいのか迷ってしまう。途中コンビニのような、倉庫のような店でロレックスに供するビールNileGoldを買う。さてロレックスとはなんだろうか。

ロレックス屋には平べったいパラボラアンテナのようなフライパンが必ず一つあり、店先にはいくつもの捏ねて丸めた小麦粉の塊りがいくつかならんでいる。そして多くの店の主は男だった。そう言えば南部アフリカでは男が露店を開いているのは稀だったが、東アフリカではそれが普通になっていることに気がついた。
男は小麦粉の塊りを一つ掴んだと思ったら油を敷いた鉄のパラボラアンテナにそれをポンと乗せて、両手を仲居さんの「失礼いたしますの手つき」でもってパラボラの上に延ばし広げていく。みるみるうちに小麦粉の塊りはパラボラの上を覆ってしまった。暫く放っておいてからひっくり返して両面を焼く。白かった塊りはすっかりいい狐色に焼けパラボラから外される。これがチヤパティだ。次はプラスチックのコップで塩を入れて溶かれた卵、こっちの卵は餌のせいで日本のように黄色くない、その白い卵がパラボラの上に広げられる。そして角切りトマトとタマネギを乗せてじわじわと焼く。そこに先ほどのチヤパティを乗せ、卵ごとひっくり返して最後にグルグルマキマキとロールする、おぉ!だからロールエッグス、、、ローレックスなのか!

それがビニール袋に突っ込まれ、それをホクホクといただく。クレープよりも生地が厚いので重量感がある。二、三本食べればたくさんになりそうだ。卵のしょっぱさをトマトとタマネギをのフレッシュさが中和して丁度良い。別の露店でも同じようにトマトとタマネギを乗せた卵を生地で巻いたものだったが、そこはトッピングでチリソースを加えられた。バラエティといったらこれくらい。

鶏肉も隣の店に並べられており、眩しい白熱灯のランプに艶が出て旨そうだ。夕飯を食べてきてもいたので腹はいっぱいだ。しかしあの艶を見せられては買わずにはいられなくて買ってしまった。店主と思しき男は携帯をいじりながら網に鶏肉を乗せて気分よく焼いている。しかし彼の眼はまるでチキンを見ていない。てっきり焼いているチキンが携帯の画面に映っていると思ってしまう程にチキンを見ていない。マルチタスクというのはこれか!それでもまぁうまい具合に焼けたチキンが供された。
日本とアフリカではプロフェッショナルの形に違いがあるのかもしれない。

そんなことを考えながら満腹になって夜道を帰路に付いた。

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