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2014年4月2日水曜日

あげたい衝動

今朝は泊まり客に注目されながらのテント撤収で緊張した。アフリカの注目は凝視に匹敵する。日本のように人を凝視することを憚る文化がないので容赦ない。テントのジッパーを開けたら最後。プライバシーはないよ。うかうか変な習慣でもしようものなら日本人はそんなことするのか!と驚かれてしまうから要注意だ。ここでは私一人のミスが日本全体の恥になる。いや彼らにとっては中国も韓国も日本もどれも一緒なので、東アジア全体の恥だ。まったく朝から荷が重い。しかし宿のオーナーの秘書のグレイスちゃんは可愛かった。はにかむ挨拶がいちいち可愛いんだから朝から幸せだ。メアド交換なんていう洒落たことをしてしまった。いつもメアド交換は男ばっかりだったのでたまにはいいじゃないか。そうそう、ここまで来ると遠くの方に高い山が見え始めた。恐らくムハブラ山Mt.Muhabura(4127m)を含む山系の一角だと思うが、整った三角形が美しい。朝は青々と霞んで消え入りそうだったが、昨日の夕方ははっきりと見えていた。


今日も相変わらずの丘上りで筋肉が泣いている。昨日の昼にレバーを食べたからいい筋肉を作ってくれることだろう。2000mを越えているので涼しいはずなのに、汗だくでニジニジと上っているだけの単調な走り。景色はいいよ。ふと目の前が開けて向こうの尾根が見えると爽快だ。滝もあったりして清涼感のある走りだった。
今日中にウガンダに入れるかな、なんて甘い考えがあったがムサンゼMusanze(旧名ルヘンゲリRuhengeri)で宿を取る。

ムサンゼの直前の急登でオレンジ(と言ってもここら一帯で食べられているオレンジは緑色でとても酸っぱい)を売る子負いの女性が電柱わきにいたので自転車を停めて休憩を取った。電柱を挟んで反対側に座った。買った六個の緑の丸っこが股の間に転がっている。硬い皮にナイフで切れ込みを入れて剥いていく。黄色い果肉が高地の太陽を浴びて瑞々しく輝く。それを酸っぺぇ~!と食べるのだ。いや、本当に酸っぱい。レモンくらいに酸っぱいのもあるから困る。でもフルーツが恋しいので歯がうまくか噛み合わなくなろうとも夢中で食う。

そんなムズングを100mでも200mでも離れたところから嗅ぎ取ってやってくるハイエナがいる。ニコニコの子供たちだ。この辺は服が破けていたり、セピアフィルターをかけたような色の服を着ている子供が多い。首の部分が伸びきっていて肩が出ている子もいる。彼らが少しずつ距離を縮めてきて、私がオレンジをむさぼる周りにいつしか7-8人の子供達が集まっていた。そしてお決まりの「Give me money」それを追っ払う通りすがりのおじさんがいる(今までの国では大人がこういう子供の不躾けを戒めることはあまりなかったので新鮮だった)。一度はそれで散った子供だがそれでも懲りない奴もいる。また様子を見ながら少しずつ距離を縮めて再び射程圏に入った私に「Give me money」、「orange」しまいにゃニコニコのまま「Bicycle」だもんなぁ。もう君たちにはお手上げだぜ。本気で。

そんなひょうきんな子供とは距離を置いて少し遠い場所で水汲みのタンクを両手に持った四、五才くらいの男の子が佇んでこちらを見ている。洋服はボロで汚く、顔にも汚れた上から汗か水が流れたような跡がついている。ひょうきん者とは対照的に顔には明るさがなく真剣な表情だ。私は残っていたオレンジとバナナを渡したくなってしまった。しかし、今まで何度もそういう衝動を抑えてきたある種の引っ掛かりがその衝動にブレーキをかける。私という非日常の人間が介入することが果たしていいことなのか。わからない。苦い思いを引きずりながら私が去ろうとするとオレンジ売りのおばちゃんが少し形の悪いオレンジを選んで一個だけ彼にあげた。水タンクから手を離してそれを掴むとその男の子は齧り付いた。そして私の前を食べながら通り過ぎていった。少しだけ気持ちが晴れて私も出発し、前を行く彼を追い越そうとするとさっきのひょうきん者(10才くらい)が小さい彼が貰ったオレンジを奪い取ろうとしている。弱いものはいつだってどこだって虐げられる運命にあるのかもしれない。

と、そんな出来事。

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