アンに日本料理を作ってくれと頼まれた。彼らは魚を扱っているだけあって、魚消費大国・日本の料理に興味津々だ。もともと様々な文化の展示場みたいな町ケープタウンに住んでおり、魚やSushiに触れる機会が多かったということもあるだろう。
しかし、困った。私が日本から持ってきた日本のものといったら、昆布に梅干し、緑茶くらいなもので日本料理と言われても何ができるだろうか。。。酢は手に入るので酢の物ができそうだが、経験上あまりに淡白な料理は受けがよくないので却下。ライオネルがうちにはSoy sauceがあるという。醤油があるならタマネギと合わせて和風のハンバーグでもやってみよう、ということになった。しかし肉は合挽きなんてものはなく、牛しかない。こっちの肉は全体的に固いので普通に作ったら固くてポソポソになりそうな予感。豆腐ハンバーグみたいに肉以外の何かを入れればポソポソにならないんじゃなかろうか、と余っていたパンの白い部分と小麦粉をえぇい、ままよ!と投入。そしてソースを作ろうとSoy sauceなるものを見せてもらうと、それは醤油というよりオイスターソースのようにどろっとしており、味も醤油ではなかった。それを食べた途端に醤油の味を忘れてしまうほど醤油とはかけ離れたものだった。ありゃー!?どうしたものか。せっかくなのでそのSoy sauceやらとバターでソースを作ったがもはや日本らしさのかけらもなくなってしまった。それでもJapanese料理、美味しい!と言って食べてくれたので良しとしよう。
しかし、このままでは日本の料理が勘違いされたままになって仕舞う、、、と悶々としていた時にアンが餃子って日本のものでしょ?食べてみたいわ。と言って来た。むむ、むぅ、それは中国料理でありますなぁ。でも日本でも家庭料理として浸透しているからやっちゃう?と言うわけで、いざ餃子を作らん!
やはり材料が。。。皮なんて売っていないし、合挽きどころか豚の挽肉すら売っていない。ニラやショウガなどのハーブは少し上品なスーパーで割と簡単に手に入った。豚の挽肉もライオネルが店にゴリ押しして何とか手に入れた。あとは皮だ。小麦粉も薄力粉しか売っていない。南アで一度薄力粉だけでやってあまりうまく行かなかったのであまり気が進まなかったが、しょうがないのでそれでやることにした。助かったのはアンが麺棒というか、ピザ生地を伸ばすやつを持っていたのでそれでノベノベしてやった。そして日本でもやったことのない水餃子という所望が。皮を焼き用に薄くしてしまったのでべろんべろんになってワンタンみたいになって仕舞ったがまぁ旨かった。これはライオネルが気に入ったようであっという間になくなっていた。
具がなくなってしまい、餃子の皮にするつもりだった小麦の塊りが余った。その時、ブラワヨの町で着いて早々、面白いものを買っていたのを思い出した。カペンタと呼ばれる煮干しのような小魚だ。
Kapenta(レイク・タンガニーカ・サーディンというニシンの仲間の淡水魚の一種で、煮干しに似ている。しかし淡水魚のせいか煮干しよりも生臭い感じがし、目も少し大きい。ジンバブエには植民地時代に持ち込まれ、定着し、ザンビアとの国境に近い北部のカリバ湖で獲れる。田舎であってもスーパーやガソリンスタンドで小袋に入って売られている。露店で量計り売りなんかも目にする)
煮干しで出汁が取れるじゃん!となって餃子の皮をうどんに転用することにした。
さらに練って練って、伸ばして切りきり。カボチャに似た野菜スクワッシュがあったのでそれでカボチャほうとうみたいにした。やはり汁物系はこっちではあまり受けがよくない。大して喜ばれはしなかったが慰めてくれた。ドンマイ。
それからせっかく出汁が取れたので茶わん蒸しも作ってみた。シイタケがないのが残念だがオイスターマッシュルームなる白いキノコ(古いキノコの雑巾臭さが少しある)を使って代用した。卵のゼリーみたいなので面白がっていたが、こっちは勉学のためにライオネル家に居候していた二十歳くらいのパンクな女の子が美味しいと言って食べてくれた。
こっちでもグリーンティーと呼ばれる一見緑茶のようなものが売られているが、色が黄色いだけで香りも少ないし味もなんだか淡白だ。そのお茶を健康志向のアンが毎日飲んでいたので、「これが日本で飲まれているグリーンティーだよ。ちょっと苦いと思うけど、これが標準的な日本の緑茶」と言って勧めてみた。少し他のスパイスなんかと一緒に入れていたためジャスミンティーみたいな香りがしないでもなかったが、「少し苦いけれど香りがいいね」と以降毎日飲んでくれていたので、持っていた緑茶の殆どを分けた。寂しくなったらこの緑茶を飲もうと思って持ってきてはいたが、すっかり忘れて飲んでいなかった。というのも毎日自転車こいでエネルギーを消費した体には砂糖と粉ミルクを入れた甘ーいミルクティーの方がしっくりきていたからだ。アフリカに来た当初はこっちの人がスプーンで一杯二杯と砂糖を入れるたびにうげっ、と声にならぬ声を出して、三杯目には降参し、四杯目には完全に再起不能なまでに打ちのめされていた。もはや砂糖汁に紅茶のエキスが少しばかり付いた砂糖茶だ。だから正面切って扉を通れなくなるまで肥えてしまうんだ、なんて彼らの習慣を否定していた。それがどうだろう。私自身が紅茶に砂糖を三杯も四杯もいれるようになっているではないか!しかも一日四食摂る時もある。まぁそれでも体型が変わってこないので、それに見合う分をしっかり消費しているということだろう。腹が減ってしょうがないのだ。帰ってからもこの習慣
が続けば私は変身するに違いない。
一応不思議な料理ではあったが日本のものをいくつか伝えることができた。「あとは、日本へ来て本物の日本を自分の眼で見て欲しい」と言って、私はグレートジンバブエに発った。
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