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2014年10月2日木曜日

1002 地平に落ちる杏

カリマの街は毎日風が吹いていた。細かい砂混じりの風。少し遅めの出発だが今日は特別風が強いせいか、さほど暑くない。
カリマで出会った人たちに別れを告げて。

子供がたくさん来ていたが、お金払っていなかったっような。。。

ちょっとぼさっとしているけど自転車修理に毎日精を出していた自転車屋のおやじハサブー、言葉は通じないがいつもウェルカムで迎えてくれたモハメッドの叔父、毎日料理の値段が変わっていた食堂のおやじ、そして何かと紅茶を勧めてくれた携帯屋のおやじ。どれもみんなおやじだがこぞって気さくな人達だった。日本からアフリカを見に旅しにやってきた。たったそれだけ、本当にそれだけで「おぉ、そうかそうか、日本はいい国だよ、ホントに、ワッハッハ」ともてなしてくれた。そうやって私は彼らの生活の一部を垣間見ることができ、本当に来てよかったと思うのだ。
最後に1杯砂糖で甘い搾りたてのオレンジジュースをゴクッと、昼飯にタミヤのサンドイッチを持って、再び砂漠に向けて出発。暑い中登ったジェベル・バルカルの雄壮な岩肌が遠ざかっていく。街の外れのスタジアムの背中は果てしない白っぽいベージュの砂漠へと続いている。


北風に押し戻される。なかなか進まない。まるで坂を登っているようだ。それにしてもカリマ以降、道路を走る車の数がぐんと減った。そして今までの砂漠には人の生活感や、動物たちの息づきが感じられたがこの道沿いにはそれが全く感じられない。ここまで孤立すると少し不安になる。加えて水の補給地点を見込んで次の街ドンゴーラに行けるだけの水は持っていない。地図には一箇所water tankという表記があるが期待できるのだろうか。

50kmくらいのところに白黒の水タンク発見!しかし寂れて人の気配なし。と思って近づいたら一人の男がドアも窓も取り外されて、極めて開放的な小屋でAK銃を解体して掃除していた。上半身裸である。警備員らしいが、一体なにを警備しているんだろうか?辺りには他にも建物があったからおそらくそれを。水を貰えないか、と尋ねるとバケツに半分ほど汲まれた水を全部くれた。水タンクは機能していないようだったが、一体この男はどこから水を得ているのだろう。そもそも車もないが彼はここに住んでいるのだろうか。詮索すれば次々と謎が出てきそうだったのでやめにした。
そして水を貰って日陰で休んでいると、彼の銃掃除が終わったようで彼は寝た。むむぅ、謎の多き男よのぅ。

まだ十分とは言い難いが、うまくすればドンゴーラまでもつだけの水が手に入って安心して走るが、風は止むどころかますます強くなって顔面を容赦なく叩く。目が痛い。時速6,7km。
止むこと知らぬ  砂漠の風よ  何処より来る 旅の途中でただ刹那  出会った君は  何時まで生きる
風が小さな砂丘の峰の端を撫で砂を攫ってゆく。その金の砂が青黒いアスファルトを蛇のごとく左右にうねりながら横断する。
いつの間にやら日が落ちそうだ。ヌビア砂漠の空はパステルカラーで優しい。夕方はいくつもの穏やかな色が空を踊る。太陽の周りの空はとっぷりとマンゴージュースの色。次第に陽の色が濃くなり干した杏の様。ハルツームでもっと買っておけばよかった、干し杏。
今日も杏が地平に落ちるのを見ることができた。地面を潜ってまた明日会おう。夜は上弦の月と遊ぶから。

月が明るい。半月だというのに、月の光だけで調理ができる。夜半だというのに未だ風やまず。しかしヌビアの砂漠は虫が鳴かぬ。風の音のみ。今日は気温も低く寝やすかろ。

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