エチオピアは蜂蜜生産が盛んで、至るところで蜂蜜が売られているのを見かける。いくつか品質にランクがあり、純度の高い黄金色のものから不純物をたくさん含んで褐色のものまで様々だ。中でもアジスのママの友人宅で戴いた地蜂のものは高級なのだそうだ。確かに花の香りが仄かに香って蜂蜜とは別物のようなものだった。
更にエチオピアではテジと呼ばれる蜂蜜から作られたワインがある。もともと蜂蜜は祝い事の時に供される貴重なものでそれから作られるお酒はきっと天にも登るような貴重なものであったに違いない。そしてその味たるや、あぁ考えただけでもミツバチさんを祝福できる。そのようなお酒があると聞いてエチオピアに入ってからずっと探し求めていた。消極的に。普通のバーでも場所によっては飲めるようだが、砂糖が添加されていたりしてなかなかいいものに出会うのは難しいようだ。ゴンダールにいいテジベット(テジ飲み場)があると知って楽しみにしていた。
一日思う存分遺跡や教会を回った後、日が落ち始めた頃にテジを求めて雑踏へ繰り出した。何とgoogle mapにテジベットの場所が標されている。(スマートフォンのGPS機能は便利だがその分、孤立を促す)
そのポイントに行くが、それらしきものは見当たらない。またしてもよくある古い情報か。辺りを彷徨いて、ふと、空を見上げると、入道雲が黄昏の淡い空に伸びている。ちょうど太陽を背に立っており、雲の縁がじりじりと紙が焼けるように光っている。そして入道雲の突端に富士山などの独立峰ににしばしば掛かるような笠雲が靡いている。なんと、それが真珠のように輝いているのだ。いや、形的には牡蠣の貝の内側といったところか。こんな光景、一度も見た事がなかったのでなんだかありがたい気持ちになって、お辞儀をしていた。その時、私の視界の隅っこに子供がChina!と言って侵入してきた。何も悪びれず、決して物を乞う顔ではなく、まるで格下の人間に命令するように「China money!」と言ってのけるところを見ると中国人を馬鹿にしてるのか、と感じる。中国人はあなた方の財布ではありませんので悪しからず。無礼には無礼を持って、蝿を追い払うように追い払う。こういうくだらない事に忙しいところがエチオピアを旅する醍醐味かもしれない。
ありがたい光を見ることができたのだテジは見つかるに違いない。ヤケクソに一軒の小さな酒場のようなところで「テジはあるか」と聞いてみる。ない、という女主人の答え。めげずに次、と店を出ようとすると、一人のくすんだピンクのトレーナーを着た少年が「テジを飲みたいの?僕知ってるよ」という仕草で付いてきて、と合図する。おぉ、早速来たか!とわくわくして少年と並んで歩く。少し歩いて少年が入ったのは小さな工場のような煤けたブルーの建物。え、ここが!?と後に続くと確かにそこにいるおじさん達の前にはそれらしい色の液体が。おじさんに「テジ?」と聞くと静かに頷いて旨そうに飲んでみせた。テジの隠れ家に連れてきてくれた少年に少しばかりのお礼を渡したら、嬉しそうに受け取って走って去っていった。
さてこの薄暗い倉庫の様な場所がテジベットであった。内装も煤けたブルー一色で、そこに所々窪んだスティールのテーブル二つと、長椅子がそれぞれ二つ、これまたブルーのスティールの棚が傾いて配置されている。壁には聖母子像や後光が射したキリストの絵が安っぽい額に入って掛けられている。広さに対して物が少ない印象だ。二十畳弱ほどの空間に蛍光灯一本で、部屋のブルーも相まって寒々しい空気が充満している。二人のおじさんの間に呼ばれ座っ た。二人の若い女性が切り盛りしているようで、そのうちの一人がメニューを持ってきてくれた。
1 bottle=100birr, half bottle=50birr, 1/3 bottle=35birr
1 bottle=60birr, Half bottle=30birr
とあった。
せっかくなので1st Qualityのハーフを頂く。面白いのはテジを飲むグラスだ。今もあるのかわからないが、昔"いいちこ"のボトルで丸フラスコみたいな面白い形のものがあった。そこに水草やメダカ、小エビを入れて机に飾っていたことがある。まさしくあの形の瓶がテジ専用グラスのようなのだ。その細い首の突端ギリギリまで注がれた濁った黄褐色の液体が私の目の前に置かれた。蜂蜜が寒い時に結晶化した時の色だ。ハーフで300mlくらいあるのだろうか。これで50birr=250円(シロとインジェラで15-20birr)だからやはり少し高級品なのだろう。
待ちに待った出会いに胸をときめかせ、一口含む。「むむっ、ッコンジョ!」と言って、親指を立てると、心配そうに横目で見ていたおっちゃんが氷が溶けたように破顔した。安心したおっちゃん二人は再びアムハラ語で話始め、私はその間で満足げにテジをググっとやっている。テジの味は蜂蜜独特の風味を僅かに残しながら、白ワインの風味とビールのコクと旨みが後に引くような感じである。どうやって作るのかは言葉が分からず聞けなかった。店の裏の所蔵タンクを見せてくれと頼んだが、代わりに彼らの生活空間を見せてくれて終わった。
一人のおっちゃんは一杯やって帰った。もう一人のおっちゃんは大きいボトルを抱えて飲んでいるのでまだまだやるのだろう。おっちゃんがアムハラ語で話しかけてきた。壁にかけてある営業店許可証を指差して、政府がどうの、お金がどうのとポケットを指し示して何か言っている。推測するに許可証は政府のお金儲けみたいなもんなんだ、というような事を言っていたのだろう。正直分からなかったが酔っぱらい同士、なんとなく通じてしまうものである。
その後も「お前は中国人か?」みたいな事を聞いてきたので「ジャパニーズだ、エリトリア人やソマリア人、エチオピア人は似てるけどディファレントでしょ?それと似たようなもんで、うちらも日本人、中国人、韓国人、台湾人が似てるけどディファレントなんだ」と言ったら分かったのか定かではないが妙に納得した顔をしていた。
そしておっちゃんがアムハラ語を愛している風だったので「In Japan, No English, Japanese only, mother, father, brother, sister everybody speaks Japanese only 」と身振り手振りで言ったら、もうおっちゃん嬉しそうに店の女性二人に向かって「ほらな、日本も英語使わないんだって、バンザーイ!」みたいな感じで右拳を上げて盛り上がっている。それで調子に乗った私はこれでもか、と「文字も日本の文字を使う、アムハラの様に」と言うと、またしてもバンザーイ!もうヨッパライ二人でバンザーイ!店の女性は面白そうに微笑んでいる。そんな楽しいテジ呑みとなった。
更にエチオピアではテジと呼ばれる蜂蜜から作られたワインがある。もともと蜂蜜は祝い事の時に供される貴重なものでそれから作られるお酒はきっと天にも登るような貴重なものであったに違いない。そしてその味たるや、あぁ考えただけでもミツバチさんを祝福できる。そのようなお酒があると聞いてエチオピアに入ってからずっと探し求めていた。消極的に。普通のバーでも場所によっては飲めるようだが、砂糖が添加されていたりしてなかなかいいものに出会うのは難しいようだ。ゴンダールにいいテジベット(テジ飲み場)があると知って楽しみにしていた。
一日思う存分遺跡や教会を回った後、日が落ち始めた頃にテジを求めて雑踏へ繰り出した。何とgoogle mapにテジベットの場所が標されている。(スマートフォンのGPS機能は便利だがその分、孤立を促す)
そのポイントに行くが、それらしきものは見当たらない。またしてもよくある古い情報か。辺りを彷徨いて、ふと、空を見上げると、入道雲が黄昏の淡い空に伸びている。ちょうど太陽を背に立っており、雲の縁がじりじりと紙が焼けるように光っている。そして入道雲の突端に富士山などの独立峰ににしばしば掛かるような笠雲が靡いている。なんと、それが真珠のように輝いているのだ。いや、形的には牡蠣の貝の内側といったところか。こんな光景、一度も見た事がなかったのでなんだかありがたい気持ちになって、お辞儀をしていた。その時、私の視界の隅っこに子供がChina!と言って侵入してきた。何も悪びれず、決して物を乞う顔ではなく、まるで格下の人間に命令するように「China money!」と言ってのけるところを見ると中国人を馬鹿にしてるのか、と感じる。中国人はあなた方の財布ではありませんので悪しからず。無礼には無礼を持って、蝿を追い払うように追い払う。こういうくだらない事に忙しいところがエチオピアを旅する醍醐味かもしれない。
ありがたい光を見ることができたのだテジは見つかるに違いない。ヤケクソに一軒の小さな酒場のようなところで「テジはあるか」と聞いてみる。ない、という女主人の答え。めげずに次、と店を出ようとすると、一人のくすんだピンクのトレーナーを着た少年が「テジを飲みたいの?僕知ってるよ」という仕草で付いてきて、と合図する。おぉ、早速来たか!とわくわくして少年と並んで歩く。少し歩いて少年が入ったのは小さな工場のような煤けたブルーの建物。え、ここが!?と後に続くと確かにそこにいるおじさん達の前にはそれらしい色の液体が。おじさんに「テジ?」と聞くと静かに頷いて旨そうに飲んでみせた。テジの隠れ家に連れてきてくれた少年に少しばかりのお礼を渡したら、嬉しそうに受け取って走って去っていった。
さてこの薄暗い倉庫の様な場所がテジベットであった。内装も煤けたブルー一色で、そこに所々窪んだスティールのテーブル二つと、長椅子がそれぞれ二つ、これまたブルーのスティールの棚が傾いて配置されている。壁には聖母子像や後光が射したキリストの絵が安っぽい額に入って掛けられている。広さに対して物が少ない印象だ。二十畳弱ほどの空間に蛍光灯一本で、部屋のブルーも相まって寒々しい空気が充満している。二人のおじさんの間に呼ばれ座っ た。二人の若い女性が切り盛りしているようで、そのうちの一人がメニューを持ってきてくれた。
- 1st Quality
1 bottle=100birr, half bottle=50birr, 1/3 bottle=35birr
- 2nd Quality
1 bottle=60birr, Half bottle=30birr
とあった。
せっかくなので1st Qualityのハーフを頂く。面白いのはテジを飲むグラスだ。今もあるのかわからないが、昔"いいちこ"のボトルで丸フラスコみたいな面白い形のものがあった。そこに水草やメダカ、小エビを入れて机に飾っていたことがある。まさしくあの形の瓶がテジ専用グラスのようなのだ。その細い首の突端ギリギリまで注がれた濁った黄褐色の液体が私の目の前に置かれた。蜂蜜が寒い時に結晶化した時の色だ。ハーフで300mlくらいあるのだろうか。これで50birr=250円(シロとインジェラで15-20birr)だからやはり少し高級品なのだろう。
待ちに待った出会いに胸をときめかせ、一口含む。「むむっ、ッコンジョ!」と言って、親指を立てると、心配そうに横目で見ていたおっちゃんが氷が溶けたように破顔した。安心したおっちゃん二人は再びアムハラ語で話始め、私はその間で満足げにテジをググっとやっている。テジの味は蜂蜜独特の風味を僅かに残しながら、白ワインの風味とビールのコクと旨みが後に引くような感じである。どうやって作るのかは言葉が分からず聞けなかった。店の裏の所蔵タンクを見せてくれと頼んだが、代わりに彼らの生活空間を見せてくれて終わった。
一人のおっちゃんは一杯やって帰った。もう一人のおっちゃんは大きいボトルを抱えて飲んでいるのでまだまだやるのだろう。おっちゃんがアムハラ語で話しかけてきた。壁にかけてある営業店許可証を指差して、政府がどうの、お金がどうのとポケットを指し示して何か言っている。推測するに許可証は政府のお金儲けみたいなもんなんだ、というような事を言っていたのだろう。正直分からなかったが酔っぱらい同士、なんとなく通じてしまうものである。
その後も「お前は中国人か?」みたいな事を聞いてきたので「ジャパニーズだ、エリトリア人やソマリア人、エチオピア人は似てるけどディファレントでしょ?それと似たようなもんで、うちらも日本人、中国人、韓国人、台湾人が似てるけどディファレントなんだ」と言ったら分かったのか定かではないが妙に納得した顔をしていた。
そしておっちゃんがアムハラ語を愛している風だったので「In Japan, No English, Japanese only, mother, father, brother, sister everybody speaks Japanese only 」と身振り手振りで言ったら、もうおっちゃん嬉しそうに店の女性二人に向かって「ほらな、日本も英語使わないんだって、バンザーイ!」みたいな感じで右拳を上げて盛り上がっている。それで調子に乗った私はこれでもか、と「文字も日本の文字を使う、アムハラの様に」と言うと、またしてもバンザーイ!もうヨッパライ二人でバンザーイ!店の女性は面白そうに微笑んでいる。そんな楽しいテジ呑みとなった。
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