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2014年8月15日金曜日

0815 何かが来る予感

雨がテントと叩く音で目が覚めた。ソロロSololo以降は緑も出てきており、既に砂漠から抜けていた。エチオピアへケニアから北上する道路はソロロ辺りで東に折れ、メガ山脈に沿って走っている。このメガ山脈がケニアとエチオピアを隔てており、空気を遮り気候を全く違うものにしている。おそらく山が雲を作り、今朝の雨を降らせたのだろう。一帯がアカシアの林になっており、低いのから高いのまでトゲトゲしているツンデレだから困ってしまう。テントを張っていた場所のアカシアは私が去ろうとすると「去らんでくれかし」と服を引っ張りおる。
雨季が近いのかもしれない。木々に緑が戻りつつあり、緑に先駆けて白い綿毛のようなアカシアの花が辺りいっぱいに香りを放っている。その眠る木々が葉よりも先に花をつけ、枯れ林をわっとにぎわす様は、ダンコウバイやマンサク、ウメでにぎわう日本の里山の春を思わせる。そのアカシアの叢生林を切り拓いて道を通しているので自転車での走りは最高に気持ちが良い。一息一息が新鮮なのだ。
モヤレ峠までは500mほど標高を上げなくてはならないのだが、一向に登りが始まらない。メガ山脈が急峻なためずーっと東に行き、緩めの尾根を巻いてのぼりはじめるのだ。しかし緩い上り。ダチョウクラブが今日も結成されたようで、二羽が道路を横切ったり並走したりパニックぶりが冴え渡っていた。オシリのフサフサが走ると上下に揺れて、小学生の頃運動会で作らされたすずらんテープボンボンのようで可愛い。今の小学生もサキサキしてるのかしら。
途中道路工事の調査隊が迷彩服で武装した警備員を伴って測量していた。高価な機材を持っているためか、警護が厚い。道路は予定ではあと三年かかるそうだ。舗装されたらおそらくアフリカの中でもかなり気持ちの良いコースになるんじゃないだろうか。
モヤレの郊外か?と思ったのはフェイクでここから急登。ギヤ最軽でもひぃふぅみぃむぅ、ぜぇはぁもぇめぇ。この辺りは高い木も出てきて緑が濃くなった。その木陰でおっさんグループが私を見つけて「China!China! Bring water!」と抜かすのに「なんだてめぇら、水を持ってこいって、日陰にしゃがんで随分上から目線じゃねえか。そんな奴に誰がこの聖水をやるかってんだぃ。これはなぁ、100㎞離れた中国人が掘った井戸で汲んだ天然のポカリスエットなんだぞ。それにチャイナは人じゃねぇ、国だ!覚えとけ、おっさん共!」と横目で睨みつけて、ゼェハァ、ゼェハァ。呼吸が乱れているので心の声も乱れてしまっているのは許して欲しい。
そうしてたどり着いたモヤレではさっきのオッサンたちのように「China!」と呼ばれて迎えられた。もういちいち修正しない。きりない。
国境越えの前にケニア最後の晩餐に食堂を探していたら、バスの兄ちゃんが教えてくれた。行こうとすると、若い男が俺が教えてやると道を先導し始めた。でた、此のタイプ。案内と称して、俺はガイドで何でも知っていると言ってチップを要求する奴。自分で行けるから君はいらん、と言う私の言葉を遮る彼。好きにさせた。まぁ、俺は払わんよ。頼んでないからね。彼が先をゆく食堂の隣にわざわざ入る。敢えて君の世話は受けん、という意思表示。食堂でも先立って注文を聞こうとしているので、それを遮って注文。諦めたように彼は食堂の外に出た。が待機している。構うもんか。ふん。
冷え冷えのファンタはここまで砂漠と未舗装を越えてきたご褒美。あ、途中でもいくつかご褒美あったけどね。あぁ超新星爆発級の旨さだ。オリオン座のベテルギウスに先立って爆発してしまったよ、もう。
それに料理もボリューム満点で大満足。雑巾みたいな牛の腸とその打診でとったスープと、ケール炒め、じゃがいもトマト煮込み、ご飯。なんか給食の献立みたいじゃないか!
食べ終わって外に出ると、さっきの奴がチップをくれと言ってくる。私もあげれば事はすんなり済むのに、一度あげないと決めたら意地でもあげない。強情でケチだ。何が嫌だって、彼らの考えが嫌いだ。ムズングを見つければ、どうせ金を持っているんだから吹っかければいいと考え、寄って集って金をせびる。そっちがその気ならこっちも固くなるからな、という心持ちだよ、まったく。イスィオロを過ぎたあたりからだ。そういう輩が増えてきたのは。それまではあまり気を張って固くなる必要はなかった。攻撃的な奴がいなかったから。
途中で出会った旅人はエチオピア辺りはあまりにも鬱陶しかったから英語を話せないふりをした。と言っていたのも何となく気持ちはわかる。今週砂漠で出会ったオランダ人自転車乗りも同じ手で乗り越えていた。
でもなんだかね、こういう場所の方がワクワクするのもまた事実。何かが起こりそうな予感。なにか来るぞ、ってね。あ、誤解の無いように。信頼できる方もたくさんいる。特に年配の男性、女性ほとんどは信頼するに足る人ばかり。年配の男性で白髪になった生え際やヒゲをオレンジに染めてるのは何だろう。ファッションかな?
さて越境。相変わらず入管事務所が不明瞭だ。迷彩服の女性が座っている。挨拶すると「私は警備員。事務員はお昼からまだ帰ってきてないわよ」という。二時に帰ってくるそうだが既に二時は過ぎている。しょうがないので壁の掲示板に目を通していると、24年間自転車で旅をしているドイツ人の記事が貼らていた。
◯◯は毎日尿を飲んでいた!
とのキャッチーな見出しが踊る。本文中もその箇所に赤線が引かれていた。確かに飲尿はショッキングだ。24年間の自転車旅をはるかに凌ぐ程のショックをケニア人に与えた彼は今どこを走っているのだろう。彼は言う。規則正しく生活するには毎日飲尿しなきゃ。流石だ。しかしそんな飲尿哲学者の彼も独身走っていて無性に寂しくなることがあるようだ。
そこへ事務員登場。なんなり出国スタンプを押してもらえた。残りの記事を読んでいたら事務員が「あ、エチオピアVISA確認するの忘れた、持ってるよね、君?」だって。そんなのほほーんとした昼下がりのけだるい事務所。
エチオピア側の事務所までの200mくらいの区間にも「China!」 「China!」 「Chinaー!」 来ましたよ。こりゃ面白くなりそうだよ、エチオピア。私も本気で行かないと失礼だな。よしっ。
事務所に行く前に道端でマスクをした怪しい白衣の、木陰に座ったおっちゃんに呼び止められた。パスポートを見せよ。と言う。「え、ここが事務所?」と聞くと「エボラがなんたらかんたら」と言う。ああ、検疫所か。パスポートを見せ、いくつか質問に答える。黄熱病の予防接種証明も要求された。ウガンダを通ってきたことに妙に引っ掛かっているおっちゃん。ん?ウガンダではまだ出ていないだろう、エボラ。リストを確認して頭痛はあるか?と言う。ない。それだけ。ぽい、と打ち捨てられた黄熱病の予防接種証明書が風に飛ばされそうだよー!なんだかこの緩い感じ。全然切迫感ないね、東側は。
渡された紙にはアムハラ文字でクニャクニャと何か書かれているがわからない。とにかくこれで事務所に行けばいいのだという。
事務所では事務員同士が言い争い中で、入っていったら「ちょっと待ってろぃ」と言われて外のベンチで待ちぼうけ。隣のベンチには白ひげに白いイスラム帽子でハンバーガーされたおじいちゃんが一人。午後の穏やかな一時。事務室からは怒声が聞こえてくる。チーン。
30分くらい待ってようやく中に入れてもらえた。手続きに入る、がまだ言い争いは燻っているようで、その言い合いの度にいちいち作業が切られる。まぁ今日はもう走らないでモヤレ泊りだからいいよ、ゆっくりでも。でも入国はさせてね。最近はどこの入国でも全指の指紋を取られる。右手四本指、右親指。そして同じく左手。さらにカタツムリの目みたいなやつで顔写真も撮られる。それが終わると私のパスポートが宙を飛んだ。おっちゃんからおっちゃんへAIR MAIL。もう一人のおっちゃんは入国者名簿を作っているようで「ヨシュケ?ヨウシュク?」と首を捻っている。こんな感じの手続きに、着ている服は小学校の先生みたい感じ。パソコンの絡まったタコ足配線。机は曲がって、、、もうね、なんかこの緩さに脱帽だ。それだけこのモヤレの国境が落ち着いているということだろう。
そしてめでたくエチオピア入国。このビザはパスポート君が日本へ出張して取ってきた、非常に手間のかかったものだけに喜びもひとしお。
宿に入って3日ぶりのシャワー。砂漠の砂埃で服も体もまっ茶色。汚れが落ちていくカ・イ・カ・ン。
それから楽しみにしていたエチオピア名物のインジェラ。いつもアンジェラ・アキのメガネが甘くていいなぁ、って思うんだけどもインジェラの仄かな酸っぱさも負けずに良かった。インジェラだけだと酸っぱい蒸しパンってだけであまり好ましくないけど、今日食べたのはツナ缶トマト煮込みが付け合せで、ニンニクとチリが効いたそれがインジェラの酸味と非常にマッチしていて美味かった。しばらくこいつにお世話になると思うと、よろしく頼むよ、ってね。

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