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2014年2月16日日曜日

カボチャのスープ

上る


ゴム採集

お、強そうだな



ポウポウ売り






連日の雨であらゆるものが濡れに濡れ、乾きもせず、臭くなるばかりだ。今日も例にもれず朝から小雨がぱらつき、テントの中でぐずぐずしていた。キャンプ場のチェックアウトが9:30となっていたので、雨がやんでも洗濯したり湖を眺めたりゆったりしていた。

今日は北部地域の中心都市ムズズMzuzuまで行く予定でいた。そこに安宿があるので久しぶりにドミトリーに泊まってやろうともくろんでいた。ドミトリーに泊まるのなんていつ以来だろう。ケープタウン以来初めてではないか!(人に招かれて屋根のある場所には何度か泊めてもらっていたが)
距離は湖畔の村チンテチェChinthecheから80km弱。チンテチェの手前で泊まっていたので、ムズズまで90kmくらいだ。平坦なら楽に走れる距離だが、湖畔の標高400mくらいから1300mまでの登りがある。一日では少しきついかもしれない。

マラウィに入ってからどこにでも村があり人がいるので、テントを張る場所には困らなかった。いや、心配になったことはあるにせよ、人々の温かな厚意によって、旅始まって以来泊まる場所に困ったことはなかった。この日もあまりにも登りがきつければムズズまでのどこかにテント泊を挟めばいいかと考えていた。

アンパンマンに出てきたホラーマンみたいなキャンプ場の女主人に別れを告げ、湖畔から国道までのきつい坂を自転車を押して上がる。なんだかギアチェンジが調子悪くて軽いギヤに入れられない。リロングウェを出てから兆候が表れ始めたが、ムズズまではこのままで何とか頑張ってもらおうと思っていた。

国道に出てからはンカタ・ベイNkhata Bayまで緩い上りや下りが続き徐々に高度を上げていく。両脇はツルが絡まった木々が鬱蒼とした森を作っている。標高が高くなり少し涼しい気候になったためか、木材用の植樹林やゴム採集用の樹林が緩やかな丘に広がっている。製材所が丘の上に立っており、その前では子供らが凍らせたビニール詰めのジュースや茹でトウモロコシ、バナナなどを売っている。雨は出発時に止んだとはいえ、何時降りだしてもおかしくない重たそうな雲が空に張りついていた。

その子供たちからバナナとトウモロコシを買い、いつ降りだしてもおかしくない雨に腹を備えた。雨が降っている中で物を食べるほど萎えることはない。雨が降ったらこぎ続けて体温をあげるか、店があったら雨宿りするに限る。そうやって酸味のある小さいバナナとトウモロコシを頬張っていると、日本の高校一年生に当たる少年が話しかけてきた。彼は医者になりたいと夢を話してくれた。JICAのプログラムも知っていて、たくさん勉強して日本に留学したいと言っていた。勉強はあまり好きではなかった私だが「うむ、勉学に励みたまえ」なんて偉そうなことを言ってしまった。マラウィから日本へ留学できるのなんてほんの一握りの、超エリートだけなのだろうから、もうとびっきりの勉学に励めコールを送ってやった。いつの間にか雨が降り始めていた。火照った体が急速に冷めていく。何人かの売り子は彼らの家へ避難していったが、少年とバナナを売っていた子は雨に濡れながらも店番をしていた。この医者になりたいと言う少年には親がなく、叔父のところへ身を寄せている。学費を稼ぐためにジュースを凍らせたものを売っていると話してくれた。一日に多いときで200-400円を稼ぐという。ジュースじゃたかが知れている、せっかく製材所があってたくさん働いている人が来るのだから弁当でも売ったらどうだ?というが、これで稼ぎは十分なのだという。あまり欲がない。困ったものだ。弁当を昼時に集中して売れば、朝から夕方までジュース売りに身を費やさずに済み勉学に励めるではないか、と言いたかったが、仲間と売っていること自体が楽しそうでもあったのでそれ以上は言わなかった。雨が強くなってきたので、じゃあね、将来のお医者さん!と言って別れたら少し照れていた。アフリカに必要なものの一つはサクセスストーリーだと思う。努力が報われるというサクセスストーリー。今のアフリカは金持ちがもっと金持ちになる、または外部からやって来る中国人やインド人が成功するというストーリーばかりだ。アフリカンがサクセスストーリーを駆け上ることは難しいのが現状だ。この少年にも頑張ってほしいと思った。

雨の中を無心に走る。上りはいいが下りは少し寒い。それでも清浄な空気が胸に入り込んでくるのはとても気持ちがいい。いくつか小さい店が並ぶ村のような集落を過ぎて森を突っ切る。いつしか雨は止み、ンカタ・ベイとムズズの分岐に出た。ンカタ・ベイも見てみたい気もしたが観光地化されていると聞いていたので、今回はいいや、と行かずに左へ折れムズズへ道を取った。ここから急登が始まった。道も今までの国道とは違い継ぎはぎだらけで狭く、いかにも田舎といった風だ。道行く人は教会帰りだろう、女性は美しく着飾り、男性は黒いスーツで決めている。

そのわきを変なアジア人が自転車キコキコさせてるもんだから、みんなジロジロ、でも挨拶すると途端に顔がほころんで笑顔で答えてくれる。いやぁそれにしても坂が急だなぁ。ギヤも軽いのに入らないし、ますます調子が悪くなっている気がする。使えるギヤ比もシュコシュコ変な音が鳴り始めた。むむぅ、これはいよいよいかんなぁ、と紅の豚のポルコ・ロッソを気取って口に出してみる。途中パパイヤ屋があったのでよって、自転車の調子を見てみることにした。アフリカではパパイヤをポウポウ(Pawpaw)と呼んでいる。このポウポウ屋がまたノーんびりしているんだ。道端の露店にはたいてい店主とそれに付き添う(いや付き纏う?)男が何人かいることが多い。みんな仕事がないから店のある奴にタカっておこぼれを貰っていたり、おしゃべりの相手をしたりと、多種多様な輩が付属しているのだ。このポウポウ屋も何人かの男と子供達が集まっていた。まぁ、子供は店主と甥っ子たちだからいいとしよう。いや、おっさんたちもいいじゃないか。店主は早めに農業系の公共機関を退職し、今後はコミュニティに農業のトレーニングをするのだと夢を語ってくれた。大の日本車ファンでインターネットで注文したが、今期は支払いをできずお預けの状態だという。

ポウポウは南アで食べて以来久しぶりである。ポウポウってあまり個性のない果物なのであまり好きではなかったがこうして食べると意外とうまい。半分に割って中に入っているカエルの卵みたいな黒い種をほじくり除いてから食べる。何よりも安い。わらじサイズくらいで30円くらい。一個食べるともう腹いっぱい。

自転車の調子を見てみるが特に問題はない。あるとしたらスプロケット(ギヤの板の塊で後輪の軸に付いている鋼の巻きグソ、汚い表現しかできずにすみません)の歯が削れているくらいだ。念のために注油はするも音は消えたもの歯飛びは益々酷くなった。使えるギヤ比は数個だけ。これでは急登は押して登るしかあるまい。

何とかなるだろうと思ったがいよいよ深刻な事態になってしまった。ムズズまでも今日はたどり着けそうになくなった。まぁそれでも使えるギヤ比でコツコツ登っていればそれなりに進むもので、ムズズまで15kmのところまできた。標高も1300mを越えた。相変わらずいつ降りだしてもおかしくない雨雲が空を覆っていたが、一日中隠れていた太陽が高度を下げたために雲の下を明るく照らしている。しかし標高も高いため肌寒い。

あぁ、今日も終わりかぁ。というわけで寝床を探し始める。あまり人通りもないのでブッシュキャンプでもいいかな、と思ったが、雨季の潤いのおかげで勢いづいた草が茫々であまり良い場所が見つからない。一見家を見つけたが火が燻っているものの人は不在だったので諦めた。そんな調子で先へ進むとRose Fallという小さな看板がたてられた門が見えた。小奇麗な庭を持ち白く壁が塗られた家が林の中に見え隠れしている。径を進んで家に向かって挨拶すると、主人が出てきてくれた。静謐な中に厳しさを潜ませた表情に私はシャンっとなった。彼の話し方もとても優しく且威厳があり、全てを委ねてしまいたくなるような気になるものだった。後で知るのだが彼は南アのダーバンからマラウィへキリスト教の伝道と農業指導の目的で、家族とともに移り住んだという。彼の静謐でどこか神聖なものを感じさせるものはそういう使命からくるものであるらしかった。芝生のあるとても綺麗な庭だったので、さぞかし気持ちのいい睡眠がとれるだろうと期待したが、それ以上の待遇でもてなしてくれた。離れにあるゲストルームを私に空けてくれたのだ。ベッドもあり、雨が降っても濡れない心地よさを想像して雨と仲直りしたよ、もう。

母屋に案内されると台所では奥さんが料理をしていた。奥さんも口数は少ないが、とても穏やかな表情で私を迎えてくれた。そして庭で採れたカボチャで作った濃厚なスープとマーガリンが塗られたパンを用意してくれた。なんて美味しいんだー!と腹が鳴いた。汗と雨による濡れで冷えた体が一気に温められていく。旦那さんがしているように、パンで器にこびり付いたスープもすっかり払って綺麗に平らげた。そして彼らの二人の子供も紹介してくれた。柔らかな手が印象的だった。そういえばここのところずっとゴワッとした手としか握手していなかったのだ。子供の手であってもだ。

その後、家族皆がリビングに集まって映画を見るという話だったので、私も加えてもらった。白い壁にプロジェクターで映し出された。二人ずつ奥さん手作りのポップコーンが配られ、観賞開始だ。少し古いハリウッド映画で、意思を持った車に出会ったレーシングドライバーが成功していくという話だった。日曜日に毎週こうやって家族が集まって映画を一本見る。なんだかいいなぁ、と思った。映画が終わると皆が散り、私は薪で温められたお湯でシャワーを浴びた。久しぶりのお湯シャワー。

部屋に戻って地図とにらめっこしてから、ベッドに滑り込んだ。なんて心地の良い眠りなんだ。

朝目6時に目覚めると外は小雨が降っていた。既に主人は起きて、カッパをまとって今日の農業研修の準備をしていた。離れの裏には大豆畑が広がり、他にもショウガやニンニクなどのあまりここらでは見かけない作物が育てられていた。畑と住居の間には木苺が赤く色づき、鮮やかな花々が咲いている。朝ごはんも頂いてしまった。全く遠慮というものを私は忘れてしまったのだろうか。主人とともに朝ごはんをいただいた。食べる前に一緒にお祈りをした。奥さん手製のカップケーキに庭の木苺のジャムと、飼っているミツバチより頂戴した蜂蜜。ケーキに使われている卵も薪ボイラーの脇にある鶏小屋から朝採りたてのものを使っている。こういう生活っていいなぁ、と思う。食べる物に責任を持った生活。食べるものを大事にする生活。

ムズズにある信頼できる自転車好きを紹介してもらい、彼の家を出た。
























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