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2013年12月25日水曜日

地上の星

ビクトリアフォールズから19時の列車で帰ることにした。
といっても列車は一日に一本しか走っていない。
帰る前にニャミニャミとドラッグと出会ったスーパーに行き、別れを言いいたいと考えながらも、
心のどこかで気まずさからあまり会いたくないという気持ちがないでもなかった。
ビクトリアフォールズの町は相変わらず観光客の賑わいと客引きの喧騒が、傾きかけた陽の中に籠っていた。
スーパーは観光客以外のジンバブエ人も利用しているので、その賑わいに+アルファの熱気が乗り合いバスを中心に広がっていた。
結局ニャミニャミとドラッグとは会うことはできなかった。

泊まっていたキャンプ場で知り合った日本人旅行者とブラワヨまでの列車を一緒することになった。
キャンプ場から日本人5人が荷物を背負って歩いているのだが、客引きの人たちがなかなかうまい日本語で、
「楽しみましたか?」「ありがとう」「さよなら」と声をかけてくれる。
日本人旅行客が多い証拠だ。
それはともあれ、なんというか、ジンバブエに入った辺りから「商売以外のなにか」を感じる。
お金ではない何か。だから私はニャミニャミとドラッグにもそれを見出し、大きすぎる期待をしてしまったのかもしれない。

それにしても私は日本人の荷物を見てびっくりした。
バックパッカーというから背中に背負って旅しているイメージがあったからだ。
最近はコロコロとケースを転がすのが流行っているらしい。



未舗装道路はどうするの?と聞くと、そういう時は背負えるような仕組みになっているという。
バックパッカーも日々進化しているようだ。
ただし、日本人以外でこのコロコロを牽いているのを見たことがないので、またしてもガラパゴス進化かもしれない。
しかも最近は電子機器などの荷物が多く、一昔前のようなザックを持ってフラフラという様子ではなかった。
電子機器のおかげで情報を発信しやすくなったが、その分旅人の自由度は減ってしまっている気がしないでもない。
かくいう私もこんな風にやっている時間を町散策に費やせばいいのにと自分で思う。

駅に着いた頃には陽が落ちて、辺りはすっかり青暗くなっていた。
ローデシア時代の古びた列車がすでに待機して待っていた。


駅には出る人と見送りに来た人がいくらかいたが、来たときのブラワヨの駅の活気はなかった。
今回は5人席を取るために2等車を利用した。
行きの列車とは違い木造の内装ではなく、安っぽい無機質な、それでいて人々の手垢で薄汚れた客室だった。
聞くと、あの木造車は今ブラワヨにあるという。行きがラッキーだったのだ。
列車に一足踏み入れると、トイレから漏れ出たアンモニア臭が鼻を衝く。


行きももしかしたらしていたのかもしれないが、内装の立派さにかき消されていた。

列車は時間通り19時に駅を出た。
ビクトリアフォールズからの列車はガラガラに空いていた。
三等車の客がほとんどいなかった。
おそらく三等車を利用する客は観光地が目的地でないので、それ以前の駅で降りていたのだろう。
三等客室  もちろん座席は直角だ

列車ははじめ極めてゆっくり、自転車くらいの速度でしばらく走り、大丈夫かな、と思わせる様子だったが、徐々に速度を出し、本調子になった。


ビクトリアの滝の下流に続くゴルジが鬱蒼とした森に覗いている。
例の如く客室はカバーが汚れた蛍光灯一本で薄暗い。
薄暮の中、弱い光を抱え込んだ重そうな列車が鈍い音と金属をこするような高い音を出しながら走っていく。
空にはカノープスとシリウスがその輝きを競っている。
列車の窓からは人々が思い思いに外を眺めたり、風を感じたりしている。

夜の帳が降り、列車の外が真っ暗になると今まで隠れていた星々が姿を現し、空が賑わう。
列車の窓から身を乗り出し全天を見ようとすると、列車の無骨な黒い塊が空の一部を隠している。
空の賑わいに対し、地上は極めて静かに黒く沈んでいる。
しかし、ある時地上にも星が現れた。
蛍だ。
アフリカの蛍はなかなか点滅がキビキビしていて優雅さや儚さというより、快活な感じがした。
空の星は列車が動いてもずっとその場にとどまっているが、地上の星は列車とは反対方向に流れていく。
川の近くや、岩場の近くになると特にその星の数は多かった。

昼間の熱が宇宙に逃げ、風が少しずつ冷たくなってきているようだった。
天の川も天頂を流れ、最高に気持ちの良い夜だった。
私たちの客室はあってもないような明かりを消し、真っ暗にしてしばしその時間を久々の日本語を存分に使って楽しんだ。
みなそれぞれに旅への思いがあり、それぞれの形で旅をしている。
形は違えど、旅の先々で色々なものを見て、刺激され、影響され、そして日本へ帰っていく。
女性一人で旅に出ている人もいる。
話を聞くと、男性と女性では旅で見ているものが違うのだろうな、と思わされた。
女性は様々な点で男性よりも過酷かもしれない。
彼らはこれから南米に向かうが、私はアフリカをしばらく堪能する。


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