Vioolsdrift → Noordoewer → Aussenkehr(Caravan Park NS170)
お世話になったチーチョにエジプトに着いたら手紙を送ると、別れを告げ国境へ。
オレンジ川を渡る橋からは畑仕事にいそしむ人々の姿が見えた。
ナミビアと南アはとても良い関係なので国境警備もとても緩い。
オレンジ川も今の時期(雨季前)なら泳いで渡れるだろうし。
入国審査もすんなりと言われたとおりにこなせば30分かからない。
周りが山岳地域のため上りと下りが多い。
左手には岩がゴロゴロした険しい山、右手には風化して砂山のようになった山容穏やかな山が続く。
その二つの山並みの間の盆地のような荒原を行く。
フィオールスドリフト辺りから暑さが激しくなった。
汗と呼吸による水分の損失が激しい。
*スプリングボックでは夜は寒いくらいだったが、国境あたりからは夜も暑かったり、日没からしばらくしないと涼しくならなかったりする。
乾燥しているせいか、指先が荒れる。
こんなこと人生で初めてだ。
景色が遠くに、しかも雄大になったため、走っていてもほとんど風景が変わらない。
一つの山が見えたら一時間くらいずーっとその山を見て走る。
自分の小ささがことさらに際立ってきたように感じる。
建物とか人の匂いのするものと言ったら電線とそれを吊るす電柱くらい。
おっと、もう一つ、標識だ。
こいつは自転車を立て掛けられるので助かる。
植物もほとんどないし、動物もいない。
一頭サソリが道を脱兎のごとく横切るのを見たくらい。
あとは私という豪華客船にカモメの如く集るハエくらい。
そのうち「ハエ物語」も書いてみたい。
日中は暑いせいか鳥も見ない。
日中動くのはバカとハエくらいなものか。
そんな単調な景色の中、陽炎をかき混ぜながら進むと、突然土色の景色の中に緑が現れる。
オーッセンカーのぶどう畑だ。
ナミビアの株式会社のもと行われているプロジェクト(もしかしたら政府も絡んでいるかも)で、オレンジ川の畔に緑をというものだった。
オレンジ川は豊富な水量を絶えず湛えている。
もっとも枯渇している今の時期でも松本の梓川くらいあるんじゃないか。
その水をうまく利用して、ぶどうや野菜を河畔に育て、緑を増やす。
そのためオーッセンカーの町は緑であふれている。
樹木は葉っぱの長い松のようなマオウ(たぶん)がほとんどだが、防風林のようにブドウ園を囲んでいた。
緑があればそこに虫が集まり、鳥が集まり、色だけでなく音も豊かなものになる。
水というのは本当に凄い力を持つ。
土色のところにいたときの不安が緑を見た瞬間に癒された。
人の本能というものだろうか。
緑があれば水がある。それもパサパサな緑ではなく、瑞々しい緑。
ナミビアに入ってから特にそうだが、常に水の心配をしている。
携帯浄水器を持ってきたが、そもそも液体の水というものが存在しないため使えない。
水への渇望は日に日に増していく。
日本の山で飲めるような清涼な水を浴びるように飲みたい。
自転車をこいでいるときに飲むのは、お湯でしかも消毒のような変な味がする。
水、水、水。
体の外をなめらかに這うように流れる水。
体の中のどんなに細かいところまでも行きわたる水。
あぁ、水が恋しい。
掴んで抱きしめたいけどできない、水!
口づけしようとしたらいつの間にか飲んじゃっているよ!
それでも水は怒らない、ただ廻るだけ。
川縁はリゾート地になっており、キャンプ場も付いていたのでそこに泊まることにする。
しかしさすがリゾート地だけあって高い。
NS170(1700円)も取られたが、気持ちがすでにここに泊まることになっていたため承諾した。
水道から出る水を頭に浴び、塩の噴いた顔を洗った。
水への思いが遂げられる瞬間。
ここで働く人々の家は川縁に建っており、昨年の雨季には少し川に沈んだらしい。
しかし、ドアの前にはぶどうの樹が植えられており、いい感じで日陰を作っている。
園内もアカシアやマオウの樹がたくさん植えられており、揺れる葉が作る影が傾きかけた午後の陽ざしの下で優しく躍る。
カワセミの仲間(冠を被ったようなやつ)やウィーバーのさえずりがしばしの安息を与えてくれる。
他にも園内にはパンツ一丁のおじさんがいた。
隣のキャンパーだ。
「これからシャワーですか?」と聞くと、
「いいや、泳いできたんだ、そこのプールで」という。
それ水着ではないぞ、確実に。それでもおじさんはさわやかだ。
とてもプールでのひと泳ぎが充実していたのか気分がいい。
「ここ星きれいですかねぇ?」と聞くと、
「ティラスだ!ティラスがいいぞ!」と勢い込む。
どこかわからない、という表情を浮かべているとおじさんはおもむろに地図を広げて見せてくれた。
パンツのままで。
おじさんはそのティラスがとても気に入っていたようだった。
砂丘で有名なセスリムへの道の途中だ。
これから通る場所ではないか!ラッキー
おじさんありがとう。
しかし私はパンツ一丁でキャンプ場を歩くことはできなかった。
堕ちろ、堕ちるんだ!
その後にはもう一組のキャンパーが4人やってきて一緒にビール(もちろんナミビアの首都名を冠したWindhoekだ)を飲んだ。
彼らはドイツからやってきている。三週間のバカンスだそうだ。
南アやナミビアでは結構ドイツの旅行者を見る。
ナミビアはドイツの植民地であったこともあるから、ドイツ名の町が今も多く残っている(南アもドイツの入植者は点々といた)。
そういう意味でも来やすいのかもしれない。
しかもみんなデカいのだ。立呑みで彼ら四人に対していると、まるで私が子供のようだ。
そういえばなぜか飲む前に日本語で「乾杯」って言っていたな。
流してしまったが、今考えると不思議なことだ。
明日からの未舗装道路に備えて重い食料を少しでも減らす。
豆と魚の缶詰を使う。
豆が意外と食べても食べても減らないのだ。
翌日は屁がたくさん出るし。あぁ燃料になればいいのに。屁よ。
お前はただの役立たずなのか。しかも臭くて迷惑かけることもあるな。
オレンジ川よお休み。
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