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2014年9月17日水曜日

0917 警の宿

警官たちが雑談している中、私を案内したうちの一人がおもむろに少し離れたベンチに腰を掛けた。手近にあった一つのポット(取って付きのジョウロのようなもの)を手にして体を清め始めた。
ポットから左手に水を取って、そのわずかな水で手を揉みながら洗う。
再びポットを傾けて水を手に取り、顔を洗い、口を漱ぐ。
顔は念入りに、鼻の中まで水を吸って吹き出しながら洗う。
少し下って腕にも水をかけて清めていく。
文字も読めないくらいの暗がりの中、遠い光を濡れた褐色の肌が照り返し、異様に煌めく。
何度もポットを傾けながら水を手に取り、もう一度上に戻って頭をなで、そして耳を清める。
そして最後に一番下の足を脛の辺りまでこすりながら清めていく。

祈りが始まるのだ。一日五回する祈りのうちで最後から二番目の祈りマグリブだ。
そういえばどこか遠くの方から「たけや~さおだけ~」を思わせるアザーンが聞こえてくる。

体を清めた彼は手近に置いてあったマットを敷き、お祈りを始めた。
両手を腹の辺りに組んで足を肩幅に開いた楽な姿勢で気持ちを沈ませているようだ。
そのうちマットに跪いて、両手を顔の横辺りに持って行き手のひらを向こうでに向ける。
そのまま前方に腰のあたりから落ちていき、地面に額と手を着くことを数度繰り返している。
何かブツブツ言いながら。
再び立って同じことを何度か繰り返していた。

彼につられるように、次々と数人が同じように祈りを始めた。
一方で半分以上は歓談を続けたりテレビを見たり、祈りをしないものも多くいた。

さて、私がここにいるのは、今日の宿を警察に願い出たからである。
ジンバブエやナミビア、ボツワナではしばしば警察にテントを張らせてもらっていたが、
以降宿が出てきたり、安全にテントを張る場所が見つかりやすかったために警察から足が遠のいていた。
今日遅くに町に着き、宿を聞いたがなく、道行く人にどこか泊まれそうな場所はないか、と尋ねると、警察に行けばいいよ、と言われてその彼らに連れてこられたのがここ警察署である。

田舎では警察といえども英語は使われていないので、道端で出会った彼らが警察と交渉までしてくれたのである。
警察官たちはこの珍客に沸いたが、アラビア語が通じないことを知って、少し距離を取っていた。
警察官は泊まるのは構わないが、空いた部屋があるからそこに泊まるといい、
と部屋を勧めてくれたが鍵を持った人がいないとかで待たされていたのだ。
そして結局鍵を持った人が二時間くらいしてもやってこず、テントを使わせてもらった。

翌日目覚めると、昨日あれだけ距離を取っていた警官たちが、片言の英語で声を掛けてくれて、
明るい気持ちで走り出すことができるだろう。

そして昨日開かずの扉だった部屋が開いた。そこは警察署長さんの部屋だった。
え、、、署長さんの部屋に入れてくれようとしていたのか!?

署長さんがやってきて、私を招き入れてくれ、一緒に紅茶を飲みながら朝の歓談。
署長になるにはやはり高学歴が要求されるようで、英語で大学教育を受けている(修士課程)彼は英語を流暢に話していた。
今までの旅で好きな国を聞かれたり、スーダンはどうだ?とか日本のこともいろいろ聞かれた。

話している間、何人もが署長に朝の報告がてら挨拶に来ていたが、皆楽しそうに話している姿を見て彼の人柄が垣間見られた。
そして私はまた良き出会いをしてその場を離れることになった。


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